フロックスの贈り物
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同じものを買ったところでお釣りが来る。
そんな状況下で、任務が一つ残っているというのが真一には気がかりだったのだ。
「なに、今回の任務の延長上にある仕事だからな。とりあえずお前たちに優先的に回してやろうかと取り計らってやっただけだ」
「内容は?」
楓花が封筒を袖の中に押し込みながら問うと、暗音は肩をすくめた。
「さっき前に捕らえていた連中の頭をもう少し拷問ってたんだが、あんにゃろう土壇場になって『自分が捕まった時点で本来のプランはデコイ、別口で製鉄師を送り込む手筈になってる』なんて吐いてな」
「なるほど」
それで得心した真一は頷く。
それを見て、暗音がニッと悪魔のように微笑んだ。
「話が早くて助かる。この製鉄師とやらを始末しろ」
「いやぁ、とんだ大物案件が釣れちゃったねぇ」
報告からの帰り道で、楓花は鼻歌交じりにスキップをしていた。
「そうだな」
仏頂面のまま、真一は小さく頷く。製鉄師戦ともなればそれはもう実際の戦争だ。危険度は上がるが、それ以上に成功報酬は跳ね上がる。
激戦期と比べれば製鉄師との戦いは格段に減っていた。欧州の方でヴァンゼクス、アクエンアテンに続く第三の大規模超国家・ライオニアが誕生したことで、戦争は膠着期を迎えて久しい。あと数年もすれば停戦協定が結ばれるとの見通しまであるほどだ。
「そういえば、もうすぐクリスマスかぁ」
着物風の上着の袖を振りながら、楓花はのんびりと呟いた。
辺りは店から漏れる軽快な音楽で溢れている。商店街はすっかり商戦の構えだった。北アメリカ大陸を統べる超国家との関係がそれなりに良好であることや、魔鉄文明により単純な生産性が高水準に跳ね上がっていることなどが、庶民の生活レベルを辛うじて保っていた。
「クリスマスと言えばやっぱりホワイトクリスマスよね」
「雪は降りそうにないがな。そしてお前なんで勝手に報酬からホワイトチョコドリンクなんて買ってる」
今夜は満月。冬の空気は澄んでいて、月明かりが良く通る。生憎ながら向こう一週間の予報も晴れで、今年の二十四日はグリーンクリスマスの予定だった。
その時だった。
「……あん?」
ふと、真一の耳にか細い動物の鳴き声が聞こえた。
聞き慣れない鳴き声だった。気になって辺りを見回してみる。
件の声の主は、電柱の真下にいた。段ボール箱の中に新聞紙が敷き詰められ、その上にちょこんと腕で抱えられるような大きさの珍妙な生き物が乗っかっている。真っ白な毛はあちこちでくるりと丸まって、まるで雪のようだった。
「なんだコイツ」
「羊……? でもどうしてこんな街中に羊?」
着いてきた楓花がヒョイとその毛玉を抱き上げた。毛玉生命体が四本の足をジタバタ動かしながら、めーめーと鳴く。その様はもう完璧に羊だった
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