フロックスの贈り物
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背中に、冷たい鉄の芯をぶち込まれたような感覚だった。
『……真一、これって――』
同じ結論に至ったらしい楓花が、震える声で問いかけてくる。
「……帰るぞ」
短く放った言葉には、自分でも解るくらい動揺の色が滲んでいた。
狭く、暗いアパートの一室に戻る。
「ドリー……?」
刀から人の姿に戻った楓花が、恐る恐る部屋の奥に向かって呼びかける。
昨日まであったはずの返事は、聞こえない。
毒物がまき散らされているという様子はなかった。灯りの消えている室内にそっと足を踏み入れる。
果たして、ドリーはベランダへ続く窓のそばで小さく丸まっていた。
口からは真っ白な泡がボコボコと立ち、くりくりとしていた目の周りは隈のように深い皺だらけになっていた。触れてみると、驚くほどひんやりと冷たい。
設計ミスだったのか。それともドリーの一念か。噴霧されるはずの毒ガスは、殆ど全てがこの憐れな羊の体内だけで使い切られていたのだ。
痛ましく変貌したドリーの身体を、呆然と楓花が抱き上げる。
「……ねぇ」
「なんだ」
「ドリーは、ちゃんと幸せに生きられたのかな……」
ふと、窓の外を見る。
「――当たり前だろ」
気休めではなく、本心からそう応えた。
天気予報は外れたようで、羊雲から雪がしんしんと降り始めている。
それは、自分たちに向けられたクリスマスプレゼントのように思えた。
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