56部分:第四話 遠くから来たその九
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第四話 遠くから来たその九
「陛下はだ」
「肩代わりをされるとのことですね」
「それまで」
「そのおつもりだ」
「ワーグナーの借金は膨大ですが」
「それこそです」
一人が例え話を出してきた。それは。
「ユリウス=カエサルに匹敵するまで」
「カエサルとは」
「そこまでか」
「それだけの借金があるのか」
「あの男には」
「しかしだ」
それでもだとだ。男爵は話すのだった。
「陛下はそうされるのだ」
「そうされるおつもりですか」
「それが陛下の御考えですか」
「変えられないのですね」
「陛下のことは御存知の筈だ」
外交官達にこう述べる男爵だった。
「あれでだ。一度決められたらだ」
「そうですね、御考えを中々変えられません」
「そうした頑固なところもおありです」
「間違いなくですね」
「特に御気に召されたものに対しては」
「それがワーグナーなのだ」
そうだというのだった。王にとってワーグナーはまさにそうした存在になっているのだ。そしてその想いがどうしたものかというのもだ。
「王にとってはな」
「そのワーグナー、いよいよですね」
「間も無く見つかりますね」
「いよいよですね」
「そうだ。随分骨が折れたがだ」
それでも見つけることができた。彼等はそのことに喜んでいた。
しかしだった。実際にそのペンツィンクに行くとだった。彼はもういなかった。
豪奢な屋敷にいたのは一人の使用人だけだった。ワーグナーはいないのだった。
訪れた男爵はそのことに愕然としながらもだ。使用人であるその女に対して尋ねたのだった。尋ねる内容は決まっていた。
「御主人様が何処に行かれたかですか」
「それはわかるか」
彼は使用人にこのことを尋ねたのである。
「一体どちらに」
「そうだ、何処に行ったのだ」
「知りません」
返答はけんもほろろなものだった。
「申し訳ありませんが」
「何も聞いていませんか」
「すいません」
取り付く島もない感じだった。
「本当に何も」
「そうか、わかった」
彼女が何も話さないと見抜いてだ。男爵は彼女に聞くことを諦めた。
そのうえで一端ウィーンに戻った。その途中周りが彼に囁く。
「あの女おそらく知っていましたが」
「ワーグナーの行き先を」
「それでも聞かれないのですか」
「どうしてですか、それは」
「かなり口の固い女だ」
男爵はこう彼等に述べたのだった。
「喋る筈もない」
「だからですか」
「ここはですか」
「そうされると」
「そうだ、聞き出す先はまだ幾らでもある」
男爵はこれまでの政治にたずさってきた記憶からこのことを察していた。
そしてであった。彼等はさらに話すのだった。
「それでだ。ウィーンに戻りだ」
「また
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