559部分:第三十三話 星はあらたにその四
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第三十三話 星はあらたにその四
「陛下はいつもああして幕が下りてもおられますが」
「どうも余韻を感じておられるらしい」
「舞台の余韻を」
「舞台のですか」
「何でも現実の世界に戻ることが辛いらしい」
年配の俳優がこう話す。
「それでらしい」
「現実の世界にですか」
「国王陛下だからだろうか」
この年配の俳優は王に対する敬意を持っていた。それでだ。王を、そのロイヤルボックスの中に残ったままの王を見ながらだ。そうして言うのである。
「現実が辛いのかも知れない」
「左様ですか」
「国費で贅沢をされていると言われている」
その年配の俳優はこのことについても言及した。
「しかしだ。弟君が病にかかられ」
「外に出られないとか」
「噂では」
彼はオットーの狂気を言おうとした。だがそれは途中で自分で止めてだ。
そのうえでだ。こう言い替えたのだった。
「いや、陛下はだ」
「陛下はですか」
「何かと悩みを持っておられるのだろう」
王についての話にしたのだった。暗いロイヤルボックスにいる王を見つつ。
「だからこうして舞台を御覧になられ」
「そうして今もですか」
「ああして余韻に浸っておられるのだ」
「国王も大変なのですね」
「そうなのだろう。我々とは違った悩みを持っておられるのだ」
こうカインツに話していた。そしてそこにだ。
ホルニヒが来てだ。舞台の役者やスタッフの面々に尋ねていた。
「ヨーゼフ=カインツ氏はおられますか」
「カインツ?」
「彼に一体何か」
「はい、お話したいことがありまして」
こうだ。ホルニヒは礼儀正しい言葉で舞台の者達に言うのだった。
「一体何処におられますか」
「私ですが」
カインツは自分から名乗り出てだ。ホルニヒの前で一礼した。
そうしてからだ。こうホルニヒに名乗った。
「私がヨーゼフ=カインツです」
「左様ですか。私は王室馬丁長官のリヒャルト=ホルニヒです」
ホルニヒも己の名を名乗った。一礼と共に。そのうえでカインツに告げた。
「貴方の先程の舞台ですが」
「はい。今のですね」
「陛下は貴方の演技をいたく気に入れられました」
「そうですか。それは何よりです」
「それで、です」
王の好意を得たと聞いて笑顔になるカインツにだ。さらにだった。
ホルニヒは白い象牙の、金の装飾がある豪奢な小箱を出してだ。その箱を開けてカインツに見せたのだった。
「その演技を見せてくれた御礼として」
「あの、これは」
「陛下からの贈りものです」
青いダイヤとサファイアだった。それもかなり大きい。
「これをどうぞと」
「あの、この様なものは」
「是非にと仰っています」
その大きな宝石を見て驚き謙遜するカインツにだ。ホルニヒはまた言った
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