556部分:第三十三話 星はあらたにその一
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第三十三話 星はあらたにその一
第三十三話 星はあらたに
ミュンヘン王立歌劇場。深夜のその劇場に今人が集まっていた。
彼等は舞台裏でだ。今日も忙しく動いていた。
その中でだ。観客席を見て話すのだった。
「相変わらずだな」
「王様は何を考えておられるんだろう」
「こうしてミュンヘンにおられる時はいつもお一人で観劇か」
「報酬は弾んでくれるにしても」
「何か無気味だよな」
「ああ、寒い」
王以外、ロイヤルボックス以外には誰もいない観客席にだ。そうしたものを感じていたのだ。
「こんな寒い劇場はな」
「リハーサルの時よりも寒いよな」
「誰もいないと劇場は冷える」
人気、それにより劇場は熱くなるものだ。しかしだ。
王以外に誰もいない劇場においてはそれは感じられない。だからだ。彼等も寒いものを感じてだ。そのうえで無気味に感じていたのだ。
そしてだ。それはオーケストラの面々も同じだった。
彼等にしてもだ。こう話していた。
「宮廷は何としても止めたいらしいな」
「そうらしい。無駄な浪費だとな」
「観劇なら昼にできる」
「御一人での観劇なぞ浪費に過ぎない」
上演にも費用がかかるのだ。特にワーグナーのそれは舞台設定や衣装にもかなりの金がかかる。王が愛するワーグナーの作品は。
「だがそれでもか」
「陛下はこうして今日も御一人で観劇だ」
「あまりにも奇行が過ぎるのではないのか」
「まさか」
王のその行動からだった。彼等はこうも考えた。
「陛下はやはり」
「おい、それは言うな」
「しかしだ。最近は昼にはおられない」
「人前にも出られない」
「そしてアルプスに篭もられてばかりだ」
王の狂気が疑われだしていた。しかしだった。
王はその中で観劇に入ろうとしている。その王にだ。
今日も傍らにいるホルニヒがだ。こう言うのだった。
「間も無くです」
「開幕だな」
「はい、ですから」
「現実から夢幻の世界に入る」
王は開幕をこう表現した。
「その瞬間が素晴らしいのだ」
「夢幻に入ることが」
「そうだ。素晴らしい」
また言う王だった。
「ミュンヘンにいるとどうしてもだ」
「こうした観劇をですね」
「せずにはいられない」
現実のことを考えてだ。王の顔に苦痛の色が浮き出た。
「ミュンヘンは最早都ではない」
「都ではないとは?」
「ドイツの都はベルリンだ」
ドイツ帝国の誕生によりだ。そうなったというのだ。
「バイエルン王国もだ」
「国ではないと」
「ドイツの中にある郡の様なものだ」
他の国もそうだった。ドイツの君主国も自由都市もだ。
その全てがプロイセンの属国になったと言ってだ。王は現実に苦痛を感じていた。
そう
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