後悔
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。この状況下も恐らくは奴の想定内……違ぇな、予定内だろうよ」
「まさか。如何に『蒼征』と異名を取った壬生森提督とはいえ、20年以上も現場を離れていたんですよ?なのにーー」
「大淀。俺ぁかれこれ30年近くもこの提督って椅子に座ってきた。ベテランやロートルを通り越して、最早古狸の類いさ。そんな長い経験の中に、こんな海があったかよ?」
俺が鋭く睨み付けながら尋ねると、大淀は押し黙った。窓から見える海は、いつもと変わらず陽光を反射してキラキラと煌めいている。しかし、一歩漕ぎ出せば一寸先も安全が保障されない暗黒空間と化している。
リバースド・ナインの置き土産だろう、ネガスペクトラムの放出による空電ノイズのせいで通信機器は軒並み不調、羅針盤の探知も効かない、目視と航空偵察のみで敵を探し出さなくてはならない闇夜航路。しかも、敵からは此方が丸見えの状態でだ。こんな分の悪い戦場は戦場とさえ呼べないかも知れない。
「攻撃準備を整えている鎮守府に、直俺だけ残して攻撃を仕掛け、索敵と通信用の設備だけをピンポイントに破壊して陸の孤島にした上、空電ノイズだけ残して雲隠れ。敵ながら100点満点の基地攻撃だぞ?これを単騎でやってのけるような深海棲艦を、これまで俺達は相手にしたことあったか?」
「……この基地施設の唯一の弱点を突かれただけです。この鎮守府の堅牢な守りが抜かれた訳では無いのです」
そう言うのを負け惜しみってんだ、という台詞は飲み込んだ。
「今は耐えて下さい、提督。反撃の準備も着々と進んでいます」
「今は籠城の一手、か……」
「ですから寝て下さい。この3日、まともに寝てらっしゃらないじゃないですか」
大淀の指摘通り、金城提督の目の下には濃い隈が出来ていた。……が、本人は疲労も眠気も毛程も感じていなかった。それよりも自分の身体の中で煮えたぎる怒りが、後悔が、何よりも自分の知らない海に対する好奇心が、眠気を吹き飛ばしてしまっていた。
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