55部分:第四話 遠くから来たその八
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第四話 遠くから来たその八
「上演できなかった」
「その作品もどうなるかわかりません」
「また。トリスタン以上の大作があります」
「それは」
「指輪か」
また王からの言葉だった。そう言ってみせたのだ。
「それだな」
「はい、ニーベルングの指輪です」
「何でも四部からなるとか」
「それだけの途方も無い作品も上演されないままです」
「そちらもどうなるのか」
「それを上演させるのがだ」
王の青い目に不思議な光が宿った。そのうえでの言葉だった。
「私なのだ」
「陛下がなのですか」
「そのどうなるかわからない作品をですか」
「上演させると」
「そうだ、私がだ」
また言う王だった。
「そうさせるのだ。だからこそワーグナーを探しているのだ」
「彼の音楽の為に」
「その為に」
「彼は求めているのだ。助けを」
そしてなのだった。ワーグナーを探し続ける。その中でだ。
王室秘書官長のブフィスターマイスター男爵を呼んでだ。こう告げたのだった。
「ウィーンに行ってくれ」
「ワーグナーを探す為にですね」
「そうだ、その為だ」
まさにその為にだというのだ。彼をウィーンに行かせるというのだった。
「ウィーンの王立歌劇場にいたならだ」
「そこに多くの手掛かりがあるからですね」
「その為だ。すぐに行ってくれ」
「わかりました。ですが」
男爵は王の言葉に頷いた。しかしなのだった。
彼は浮かない顔になってだ。王に対してこう話したのであった。
「私が行くとです」
「いらぬ噂が広まるというのだな」
「はい、それは絶対にです」
広まるというのである。
「そうなってしまいますが。陛下のご成婚のことや外交のことでも」
「そうだな。しかしだ」
「しかし?」
「それもまたよしだ」
聡明さがわかるはっきりとした顔での言葉だった。
「卿が動くことで噂が流れればだ」
「他の政務のことへのカムフラージュになると」
「だからだ。それもまたよしなのだ」
そうしたこともわかっている王だった。彼はわかって命じているのだ。そしてであった。王は彼に対してあらためて命じるのだった。
「ではだ。いいな」
「はい、それでは」
こうして男爵はウィーンに向かった。早速マグデブルグの新聞が彼の動きに気付き書きはじめた。彼の同行は筒抜けだった。
しかしその目的はわかっていなかった。彼はウィーンに着くとすぐにだった。
ワーグナーに関する調査をはじめた。その結果わかったことは。
「間違いないな」
「はい」
「そうですね」
男爵にだ。同行する外交官達が彼に述べていた。彼はウィーンの大使館にいてそうしてだった。彼等の報告を聞くのだった。
「ウィーン郊外のあの場所にいます」
「ペンツィンクにいます
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