暁 〜小説投稿サイト〜
魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
第一部
第7話 囚人目線って言うモノ
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 朝。それは俺にとって、とても憂鬱な時間だった。
 俺は、朝起きたら"原因不明の"頭痛や熱があることがあって、その度に琴葉に医務室に運ばれている。
 誰よりも時間や予定を守る琴葉の時間を朝から奪い、予定を狂わせる。それは嫌だ。

 今日は起きられるかな。


「起床! 点呼を取る」

 何時も通り、琴葉が起こしに来てくれる。
 グレースは、"肌のケアをする"と言って早く起きているため、すぐに鉄格子の前に来る―――訳は無く、暫くして琴葉が催促して、ようやく来る。
 シンは、早く起きて脱獄し、看守に秘密で魔法の鍛錬をしているらしく、毎朝琴葉に首根っこを掴まれて、起床時間前に房に戻される。
 ハクは、琴葉が来ると大抵の場合起きる。が、起きない時もあり、その時はグレースとシンが叩き起こしている。

 俺は―――今日も起きられない。
 意識はある。けど、体が動かなかった。でも、全くと言う訳では無いから、金縛り等では無い。

「九〇四番」
「はーい」

「八九番」
「ふぁ〜い」

「四番……はいいや」
「僕を呼ばないとは良い度胸をしているな?」

「レン。……レン?」

 声が出せなかった。辛い。苦しい。嫌だ。

「レン、起きてる? ……ちょっと九〇四番、確認して」

 グレースが近付いてくるのが分かる。
 まだ体が動かせない。声が出ない。


「……やっぱいい。ちょっと入る」


 鉄格子が開く音が聞こえる。
 視界の横に琴葉の姿が見える。……房内に琴葉が入っている?

 すると、布団が剥がされ、冬の冷たい空気が肌に伝わってくる。が、次にはごわごわとした布と、温かい手に体を支えられ、ひょいと持ち上げられる。


 ―――また迷惑を掛けた。


 鉄格子に再度鍵が掛けられ、俺は琴葉の背中で縮こまる。琴葉の黒いサラサラの髪がとてもくすぐったい。
 俺に負担を掛けないようにか、ゆっくりと医務室まで向かっているのが分かる。


「レン。反応しなくて良いから、聞いてくれる? ……あんまり溜め込まない様にしてよね? 体調崩しやすいんだからさ。沢山会う時間だってあるんだからさ、何でも私に言って? 嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと……何でもいい。私は、お前ら囚人を守る事も仕事なんだよ。私を利用して生きても良い。とにかく、一人で抱え込まないで。私じゃなくてもいいから、九〇四番、八九番、四番とかに相談して?」


 ……………………。
 顔をグリグリと琴葉の首に押し付ける。照れ隠し……と言うモノだろうか。久し振りに顔が熱くなった。

「なに。レン、照れてんの?」
「……ぅ、るさい」
「はいはい」

 小さく笑う声がして、何故か悔しくなる。
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ