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永遠の謎
53部分:第四話 遠くから来たその六
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第四話 遠くから来たその六

「そうだ、さまよえるオランダ人だ」
「ワーグナーの音楽が変わってきています」
「まさにワーグナーになってきているのですね」
「あの作品ではヘルデンテノールはいない」
 王はこのことを指摘した。
「しかしだ。それでもだ」
「音楽が、ですね」
「ワーグナーになってきている」
「そうなのですね」
「そうだ、ワーグナーになったのだ」
 そこからだというのだった。王の言葉にはさらに熱が入ってきていた。
 そうしてだ。王は次の作品を出した。
「タンホイザーだが」
「そういえば陛下はワーグナーの中ではですね」
「ローエングリンの他にはタンホイザーを愛されてますね」
「あの作品も」
「素晴しい作品だ」
 恍惚として話す王だった。
「聴いているとな」
「違うのですね」
「そう仰るのですね」
「そうだ、他の誰の音楽でもない」
「独特の世界がそこにある」
「そうだというのですか」
「あれこそがヘルデンテノールなのだ」
 またこの言葉が出た。その独特のテノールを出したのだ。
「この世にありながらこの世にない。そのテノールがだ」
「あの世界にいるというのですね」
「では陛下は」
「タンホイザーにもまたなりたい」
 王は言った。
「ローエングリンだけでなく」
「あのヴェーヌスベルグにですか」
「行かれたいのですか」
「ワルトブルグも好きだ」
 ヴェーヌスベルグは官能の世界、そしてワルトブルグは清純の世界である。王はそのどちらに対しても熱い目を向けていた。
 そのうえでだった。彼は今語るのだった。
「私はどちらも好きだ」
「官能と清純を」
「どちらも」
「ワーグナーはその二つを一つにしたのだ」
 そしてだった。王は言った。
「エリザベートとヴェーヌスはだ」
「あの作品のヒロイン達ですね」
「姫君と女神」
「その両者ですね」
「彼女達は二人ではないのだ」
 そうだというのだった。二人ではないというのであった。
「一人なのだ」
「一人!?そうなのですか?」
「あの両者は」
「そうだ、同じ存在なのだ」
 こう言うのだった。
「タンホイザーはそのどちらも見ていたのだ。エリザベートとヴェーヌスは二人ではない。両者は鏡の様なものなのだ」
「ではどちらもですか」
「同じ存在なのですか」
「陛下はそう考えられているのですね」
「私は女性については興味がない」
 このことは言い切る。王の嗜好だった。
「だが。それでもだ」
「エリザベートは愛されますか」
「そしてヴェーヌスも」
「何故か。同じに感じる時がある」
 王の言葉が現実を離れた。
「私は。彼女達とは」
「そうなのですか?」
「それは流石に無いと思いますが」
「確かに」
 王の今
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