第二十二話 川中島にてその六
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「だからな」
「それで、ですか」
「お主の才が羨ましくも思ったわ」
今しがたというのだ。
「どうにもな」
「いや、それがしは」
「何もないとでも言うか」
「この通りの顔で」
猿顔で、というのだ。
「しかも小柄で」
「言う程小さくはないぞ」
その背丈はというのだ、実際に羽柴はよく見れば小柄ではあってもそれ程小さいとは言えない位である。
「お主は」
「そうですか、しかし」
まだ言う羽柴だった。
「槍も馬も不得手で弓は」
「特にか」
「出来ませんので」
「しかしじゃ」
「それでもですか」
「お主は抜群の機転がありじゃ」
そしてというのだ。
「しかも采配、兵糧等のそれも出来る」
「だからですか」
「その才があるからのう」
「羨ましいとですか」
「そうも思うがのう」
「そうなのですか」
「わしはな」
こう言うのだった。
「お主のそうしたところが羨ましくもある」
「確かに羽柴殿の機転は見事ですな」
明智もこう言って羽柴のことを認めた。
「何かと」
「十兵衛殿もそう言われますか」
「はい、その様に」
まさにというのだ。
「それがしもです」
「思われますか」
「その機転と冴えは天下の才かと」
「天下の」
「だからこそれです」
羽柴にそうした才があるからだというのだ。
「ここまでなれたかと」
「一介の足軽から大名に」
「そうなれたかと」
「ううむ、必死に生きてきて」
羽柴としてはだ。
「そしてです」
「お母上の為にですな」
「励んできたのですが」
「そうしたことがです」
「それがしにとってですか」
「よかったのかと」
その才を発揮出来る機会だったというのだ。
「やはり」
「そうならいいですが」
「それで大名にもなっていては」
「いいとですか」
「思うべきかと」
「確かに。足軽から気付けば城持ちの大名になり」
そしてとだ、柴田は明智に言われてあらためて思って述べた。
「そこまでなれば」
「かなりですな」
「はい、それでは」
「その才をこれからもですな」
「発揮して」
そしてとだ、羽柴は明智にあらためて述べた。
「天下泰平まで戦い」
「それからはですな」
「民達に対して善政を行う」
「そうしていきましょうぞ、羽柴殿の政は」
明智は彼のこちらのことも話した。
「それがしも手本にしておるところが多いです」
「そうなのですか」
「国と民のことを考えているので」
それ故にというのだ。
「素晴らしい善政と思い」
「それ故にですか」
「それがしも手本にしております」
「うむ、猿は確かに政もよい」
柴田も腕を組んで確かな顔で答えた。
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