第2章 項羽と劉邦、あと田忠 〜虞兮虞兮、奈若何〜
第7話 不思議の国の劉邦ちゃん
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たことで、終始劉邦ペースで、なごやかに会話が弾んだ。田忠も慣れてきたのか、笑顔が混じる。
「さて〜お話するのも楽しいですけどぉ、今日は遊びに来たんですかぁ?」
なら大歓迎ですぅ、と劉邦はのほほんという。
「いえ、違います。ぜひ、劉邦様の元で戦わせていただきたくはせ参じた次第でございます」
「あらぁ、美少年なら劉邦ちゃん大歓げ??」
「お待ちください!」
小柄な少女。劉邦軍の知恵袋たる張良が声を上げた。
彼女のトレードマークである猫耳フードを目深に被ると、一度大きく深呼吸する。
それを見た劉邦は "おや?" と思った。張良が舌戦を挑む際の彼女の癖だからである。
「田忠殿の御高名は私も重々承知しているわ。でも、仇である秦の軍勢を引き入れるだけの利点はないと思うけど? かえってわが軍の不和を招くだけだわ」
「むろん、承知でございます。ですが、ぜひ受け取っていただきたい献上品があるのです」
「んん?」と財宝が大好きな劉邦が目を輝かせる。
「涼州を献上いたします」
「え〜」
一同は目をむき息をのんだ。劉邦一人だけが、がっかりしている。
「涼『州』ですって? 国の間違いじゃないの?」
「いかにも、州でございます。劉邦様の立てた国の支配下の一州として、庇護を受けたいのです」
「くっ、別にあんたたちがいなくても、私たちが自力で涼州とやらを制圧すればいいだけだわ」
「確かにその通りでございましょう。しかし、項羽は強敵でございます。是非、わが軍をご活用ください。必ずや、ご期待に副う活躍をしてみせましょう」
「それでも足りないわ」
「では……対価は、私の忠誠では不足でしょうか? これが二つ目の献上品でございます」
「わ〜!」
"してやられた" と張良は内心で田忠を罵倒した。一国まるごと献上し、忠誠を誓う。
これを邪険に扱うことは不可能だ。もし、ここで断れば、こちら側の諸侯たちに不信感をもたれかれない。始末も無理だ。
何より美少年好きな劉邦が興味を持ってしまった。
そして、田忠が率先して臣従したことで、いまだなびかぬ諸侯に心理的圧力を与えることもできる。その効果は計り知れない。
意外なことに田忠は憎き秦の将軍であるが、他国でも人気があった。理由はいくつかある。
一つに、田忠の軍は決して略奪を許さない。それどころか、征服された民の慰撫に尽力していた。征服されたことで、生活が向上した町村もあるくらいである。
二つに、秦が統一したあとも、地方の窮状を救うため奔走していた。己の私財まで投げうって他国民を救う美談が、広く伝わっている。
三つに、秦を出奔していた。始皇帝と対立してまで地方を救おうとした悲劇の忠
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