523部分:第三十一話 ノートゥングその四
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第三十一話 ノートゥングその四
「何かを得るのではなく全てを破壊するものはするべきではない」
「全くですね」
「それは」
「そうだ。戦争はそうしたものになっていく」
全てを破壊するものになるというのだ。何もかもを。
「市民達によってだ」
「近頃知識人達は市民の台頭をいいものとしていますが」
「それを絶対の善、神の御導きだともいう感じですが」
「それは違うというのですか」
「閣下はそう御考えですか」
「絶対の善なぞない」
これがビスマルクの返答だった。彼はこのことは断言した。
「市民達が若し狂えばどうなる」
「国家の主権者になる市民がそうなればですか」
「その国家も狂う」
「そうなるというのですね」
「全てが」
「そうだ。ましてそこに共産主義が入れば」
彼はこの思想を忌み嫌っていた。その本質を見切っているからだ。共産主義の実態を知っている、そうした意味で彼はバイエルン王と同じだった。
「無政府主義や虚無主義にしてもだ」
「そういえば共産主義にはその二つの思想が強いですね」
「強く含まれていますね」
「彼等にとって共産主義にならなければ」
どうかというのだ。それは。
「全てはないのと同じだ」
「自分達の主義主張通りにならなければどうでもいい」
「他のあらゆるものがですか」
「そうした意味で彼等は究極の利己主義者だ」
これがビスマルクに見たものだった。
「その彼等が市民の中に入ればだ」
「それは恐ろしいことになる」
「極限の戦争になる」
「共産主義でなくとも市民が狂えばそうなる」
全てを破壊する戦争が訪れるというのである。
「これからはな」
「暗澹たるものですね」
「何もかもをなくす」
「そうした時代になっていくのですか」
「そこには芸術も文化もない」
この言葉を出したところでだ。ビスマルクは。
バイエルン王のことを脳裏に思い浮かべた。そうして言うのだった。
「そうだな。だからこそ」
「だからこそ?」
「だからこそとは」
「あの方はそれを既に御存知だからこそ」
周囲に構わずにだ。ビスマルクは言っていく。
「戦いそのものを忌み嫌われているのだな」
「あの方とは一体」
「どなたでしょうか」
「バイエルン王だ」
このことは答えるビスマルクだった。
「あの方だ」
「そういえばバイエルン王ですが」
「我が陛下のドイツ皇帝への即位は推戴してくれましたが」
「しかしです」
「戴冠式には来られないのですね」
「代理に王弟であるオットー様が来られるとか」
「そうだな」
彼が来ると聞いてだ。ビスマルクは複雑な顔になった。
そうしてだ。こんなことを言うのだった。
「あの方も今はいいようだな」
「はい、落ち着いておられる様です」
「
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ