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勇者クリストファーの伝記
第1章 たった一人の勇者
歓待
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突然繋がった。そして、そこから大量の魔族が流れ込み、人間界の侵略を始めた。
 人間はほとんどの場合、魔族よりも弱い。何故なら、この世界における特別な力である『魔法』の扱いが、魔族に比べて人間は圧倒的に劣っているからだ。人間の“優秀な”魔法使いでさえ、侵攻してくる魔族の中で最も弱い個体と渡り合うのが精一杯だ。
 そのせいで侵略はあっさりと進み、僕が呼ばれた段階ではほぼ全ての領土を奪われていた。
 これが、均衡を失う、という状況だった。人間界と魔界、人間と魔族はその量や居場所についてバランスが保たれていなくてはならない。理由は知らないが、そうらしい。
 なので、僕の役割は彼らを魔界に追い返すことだった。さっき戦っていたのも、その一環だ。正確には、人間のほとんどが殺されてしまったため、バランスを取るために魔族は殺さなくてはならない。一匹でも取り残すと、その一匹だけでも甚大な被害を出すことができてしまうから、余計に取り逃がすことはできなかった。
 この世界の現状は、こういう具合だった。
 与えられた役割。『勇者』という肩書きを、僕はそれなりに上手くこなせていた。僕が『勇者』となって以来、人間側はその領土を急速に取り返しつつある。その理由はたった一つで、『勇者クリストファー』があまりにも強大だからだ。
 ほとんどの人間は魔族よりも弱いが、その中で精霊から力を与えられている僕は例外だった。先程の戦いでも傷一つ、負っていない。あの魔族たちが弱いのではなく、『勇者クリストファー』が強いからだ。それほどまでに、魔族と『勇者』の間には歴然たる差があった。人間と魔族の力関係を、逆転させたかのように。
 だから、実際のところ魔族との戦いは戦いとは呼べない。彼らの魔法は僕の身体に傷を負わせることはできず、彼らの爪牙は僕の皮膚一つ裂けない。僕が剣を振るえば彼らの身体はいともたやすく両断され、拳を打ち付けるだけで彼らの命は消える。ここまで一方的であれば、これは戦いではなく虐殺と呼ぶべきだろう。
 思わず嘆息が漏れる。『勇者』としての役割を全うし、この世界と人間を守るために魔族たちと戦い、勝利する。その結果として、賞賛の声を与えられる。端から見れば、何の問題もないはずだった。それでも、僕にとってはその全てが問題だった。
 窓から差し込む光に茜色が混じり込む。日が傾いてきていた。疲労感を消すためにも、少し眠っておこう。
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