514部分:第三十話 ワルキューレの騎行その十三
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第三十話 ワルキューレの騎行その十三
「そういえばスウェーデンの後ろにはフランスがいましたね」
「はい、三十年戦争の時は」
「フランスはドイツにとっては仇敵です」
王は太子のフランスに対する言葉はだ。内心では。
辛く思っていた。非常に。王のフランス文化への感情故にだ。
それでだ。また話した。
「やはり戦い倒さなくてはなりません」
「わかっています」
それはだ。王自身もだ。実によくわかっていた。
理解していた。しかし納得はというと。
どうしてもできずにだ。太子の言葉を笑わず聞いていた。そうしてだ。
太子にだ。あらためて言ったのである。
「では今宵は」
「はい、ワレンシュタインをですね」
「観ましょう」
こう話してだ。太子を観劇に誘った。その舞台においてだ。
太子がロイヤルボックスから、王より前に立ち姿を現わすと。その太子に。
観客達が一斉に拍手をする。それを見てだ。
王は微妙なものを感じた。そして観劇の後で。
こうだ。ホルニヒと二人だけになった時にだ。こう漏らしたのだった。
「ドイツは今からまた一つになる」
「喜ばしいものの筈ですね」
「そうだ。喜ばしいものだ」
それはだ。間違いないというのだ。
しかしだった。王はその太子への拍手を思い出した。ホルニヒに言った。
王は今青いベッドの中にいる。ホルニヒはその傍らに控えている。その暗い褥の中に半身を起こしてだ。王はこう言うのだった。
「だが私は次第にだ」
「陛下は」
「空虚の中に入ろうとしている」
こうだ。ホルニヒに話したのである。
「プロイセンが全てを扱う国になろうとしている」
「バイエルンもまたその中に」
「入り。そしてだ」
どうなるか。バイエルン王としての言葉だった。
「ドイツの中の只の一国になる」
「一国に」
「ドイツの軸はベルリンになる」
プロイセンの王都、そこにだというのだ。
「あの町は帝都になりだ」
「ドイツの心臓になるのですね」
「心臓は一つだ」
王はこうも言った。
「一つしかないのだ」
「ではバイエルンもですか」
「心臓がなくなる」
「ドイツに」
「そうだ。ドイツが一つになればだ」
それでだというのだ。バイエルンは。
「ミュンヘンもまた。しかし」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「ワーグナーはバイロイトに入る」
ここでもワーグナーの話になりだった。
そのうえでだ。また言うのだった。
「ミュンヘンに彼の劇場は築かれない。それではだ」
「ミュンヘン、我等の都が」
「どうなるのでしょう」
「芸術の都にもなれない」
王の望みがだ。消えるというのだ。その絶対的な存在であるワーグナーがいなくてはだ。それはならないとだ。王は考えているの
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ