512部分:第三十話 ワルキューレの騎行その十一
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第三十話 ワルキューレの騎行その十一
「ドイツの一国として勝ち続けています」
「このままパリに入城できます」
「あの国の心臓に」
「憎むべきあの国に」
「そうですか」
だが、だ。王はだ。
彼等の言葉を玉座で聞きだ。そしてだ。
そのうえでだ。王はこう言った。
「我が軍も。我が民達も」
「民達?」
「彼等が」
「戦争の中にその身を投じているのですね」
言うのはこのことだった。
「あの中に」
「はい、そうですが」
「その通りですが」
周囲はそうだとだ。いささか戸惑いながら王に応えた。
「彼等もです。果敢に戦いです」
「我が国の名声をあげています」
「ひいては陛下のです」
「これは喜ぶべきことです」
「我が民達が名声をあげるべき場所は」
それは何処でか。王は述べた。
「芸術です」
「戦争ではなくですか」
「今行われているそれではないのですか」
「仕方ないことですが」
バイエルンがドイツに入りフランスと戦う。そのことはだというのだ。
しかしだ。それでもだというのだ。
「破壊は。私は」
「戦争による破壊」
「それは」
「そうです。好きになれないのです」
それはどうしてもだった。軍服を着ていてもだ。
こう述べてだ。彼等にまた述べた。
「そして」
「そして?」
「そしてといいますと」
「この戦争はドイツを統一させる為の戦争です」
何度もだ。このことを自問自答していた。
確かにいいことだ。しかしだった。
王はどうしても一つのこと、その絶対のことを認識してだ。それで言うのだった。
「プロイセン主導で」
「いえ、バイエルンは残りますが」
「我が国は」
「それはわかっています」
バイエルンは残り王は王のままだ。しかしだ。
また一つの現実をだ。王は述べた。
「しかしバイエルン独自のものはです」
「消える」
「失われるというのですか」
「全てはドイツになります」
そのだ。プロイセン主導のドイツにだというのだ。
「私はその中で王であり続ける」
「はい、陛下はこれからも陛下です」
「喜ばしいことに」
「空虚な玉座」
王は言った。またしても。
「そしてそれはです」
「いえ、ですから」
「その玉座はあくまで」
「空虚です」
周りは慰めようとする。しかしだった。
王はその彼等にだ。あくまでこう言ったのである。
そうしてだ。その憂いに満ちた顔でだ。こんなことも話した。
「それでも私はこの玉座をです」
「陛下の玉座を」
「どうされるのでしょうか」
「守らなくてはならないのです」
こうだ。その憂いの顔で言うのである。
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