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永遠の謎
510部分:第三十話 ワルキューレの騎行その九

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第三十話 ワルキューレの騎行その九

「指輪は」
「そうです。先のラインの黄金に」
「このワルキューレ」
「そしてジークフリートに神々の黄昏」
「この四つで、でしたね」
「その通りです。全てが一つになります」
 王はわかっていた。このことも。
 そうしてだ。そのワルキューレを目の前にして話すのである。
「この作品は次の作品への萌芽でもあるのです」
「これだけの作品がですか」
「十分な大作だというのに」
「一つのものはまた一つのものを生み出します」
 王は大作もだと言うのだ。
「さらにです」
「また一つですか」
「生まれると」
「ワーグナーの芸術もまた」 
 ひいては彼自身の芸術もだと。王は話す。
「そうなのですから」
「では陛下はやはり」
「あのことをですか」
「実際に為されますか」
「はい、そうします」
 城のことにも話がいった。それについてもだ。
 王はだ。こう言うのだった。
「必ずや」
「左様ですか、決められたのですか」
「そのことはもう」
「現実のものとされる」
「城。ワーグナーの城」
 王の脳裏にまたあの城が浮かぶ。そしてその城は。
 一つではなかった。幾つかあった。そこにはワーグナーだけでなくバロック、そしてロココもあった。王の愛するその芸術達が全てだ。
 そうしたものを見つつだ。王は言った。
「この作品を観ることもまた」
「それもですか」
「生み出すことだと」
「ただ観るだけではないのです」
 まさにだ。王にとってはそうだった。
「だからこそなのでしょう」
「なのでしょうとは?」
「といいますと」
「私はワルキューレを観たかったのです」
 渇望の元はだ。そこにあったというのだ。
「生み出す為に」
「陛下の芸術を」
「それを」
「そうです。さて」
 ここまで話してだ。そうしてだった。
 ワルキューレに目を戻す。やがてワルキューレ達が吠え空を駆る音楽が奏でられる。そして父であるヴォータンとの別れの後。舞台は降りた。
 紅い炎が燃える中に王は観た。新たな生命の誕生を。
 その生命を観てだ。王は言った。
「ジークフリートです」
「第二夜の主人公ですね」
「彼ですね」
「そう、彼です」
 話はだ。そのジークフリートに及んだ。
「彼が生まれます」
「次の作品の主人公が」
「彼が」
「そうです。そして彼は」
 そのジークフリートはだ。どうかというと。
「彼はただ歌劇の主人公というだけではなくなります」
「ただ英雄というだけではないのですか?」
「作品の中での」
「ドイツのです」
 その国のだというのだ。

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