主役だと言い張れる話 前編
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は、わざわざ家まで来たという点だった。同僚だったときでさえ、家に来たことなどなかった。
ここで、妙な期待をしても良かった。実は向こうも少なからずこちらを意識していて、職場を離れることはそれなりに心を痛めていた、とか何とか。けど、そういった期待を持てるほど、俺は自分に価値を見出していなかった。
つまり、何か別の理由があるはずだ、と考えていた。そして、その答えはすぐに現れた。
「実は、お願いがありまして」
「お願い?」
平静を装った声を出した。頭の中では、詐欺や借金などをけしかけられるのでは、という疑いと、いくら何でも彼女に限ってそんなことはないだろう、という考えがぶつかり合っていた。
彼女はいい人だと言っていたじゃないか、と思うかもしれない。その通りで、彼女はいい人だ。こんな疑いを持つのは、こちら側に問題がある。つまり、もしも彼女がおかしなことを言い出さないのなら、俺は彼女に頼られる、ということになる。が、そんなことは普通に考えたらありえないことだった。
だって、そうだろう? なんの取り柄もなく、特別な関係でもない自分を彼女が頼ってくれるなんて、そんな幸運はありえない。
こういったとき、何か裏があるんじゃないかと考えることで、期待を打ち消して、期待が裏切られるショックを和らげようとする思考が働くんだ。そういう自分勝手な理由が、疑いを持たせるのさ。
そして、彼女は本当にいい人なので、そんな馬鹿げた疑いはすぐに吹き飛ぶことになった。
「お願いというのは、私の所属している一団に加わってほしい、ということなんですっ」
気合いの感じられる声で、彼女は言った。何を言われているのか分からなかった。それを察したのか、彼女はさらに続けた。
「私たちはこれから、ある悪い魔法使いの討伐に向かうんです」
悪い魔法使い──彼女がそう呼び、告げた名前は俺でも知っている名前だった。近隣の村や街から物資を奪い、人を攫い、禁じられている魔法の研究を行なっては、出来上がった魔法を使ってさらに周囲に危険を及ぼす。そういった闇の魔法使いが活動しているという話を、俺も聞いていた。
幾度となく討伐部隊が向けられ、全滅し続けている。そんな存在を倒しに行くのだという。
「今、私たちの仲間の中には、純粋な魔法使いがいないのです。だから、あなたに仲間になってほしくて来ました」
窺うような視線が向けられる。俺の気のせいでなければ、不安そうな瞳に見えた。
説明を聞いても、未だに疑問が残っていた。どうして、俺なのだろう、と。
いや、実際は疑問など持つ必要はなかったんだ。彼女は純粋な魔法使いが必要だと言った。理由はこれで全てだ。偶然だったけど、彼女
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