主役だと言い張れる話 前編
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はそれなりに勇気と努力を要した。何せ、前に会ってから時間が経っていたからね。
自分なりにはっきりと挨拶を返したつもりだったが、彼女には笑われてしまった。
「ふふ、相変わらず声がちっちゃいですね。でも、お元気そうで何よりです」
明らかな社交辞令でさえも、彼女に言われると嬉しかった。声が小さい、という言葉も他の人間に言われれば傷つくだろうけど、彼女が言うと自分の性質を理解されているように誤認できて、悪い気はしなかった。
「中に入ってもいいですか?」
「えっ」
室内を指差した彼女に、俺は心底驚いた。
何が不思議なんだ、と思われるかもしれない。ただ、自分の人生の中で、異性を自宅に招く、なんてことをしたことがなかっただけだ。まさか、そんな機会が訪れるなんて、夢にも思っていなかった。
「あー……まずかった、ですかね?」
こちらの様子を伺うように小首を傾げる彼女に、俺は慌てて首を振った。
「あ、いや、そういうわけじゃ……突然だから、ちょっと、驚いただけで……」
ぎこちなく答える俺に、「ならよかった」と彼女は再び笑顔を見せてくれた。
室内へと案内をして、椅子に座ってもらう。お茶を入れたカップを机の上に置いて、対面に座った。
改めて彼女の姿を眺める。全身を白色のローブに包み、身長近い長さの魔導師の杖を背負う。装備品は会っていない間に随分と変わっていたけど、それ以外は何も変わっていなかった。
室内灯に照らされて僅かに輝く美しい白銀の髪が、背中へと流れ落ちている。汚れ一つない滑らかで健康的な肌、整った鼻梁、可愛らしい目元に、いつまでも見ていたくなる黄金色の瞳。
細い首には魔法の発動を助ける装飾具。胸元でローブが押し上げられ、丸みを帯びる。袖から覗く手も綺麗で、細指にはリングがあった。
妙に細かく見てるって? 他の同僚たちと同様に、あるいはそれ以上に、俺は彼女に好意を抱いていたからね。職場でしか話さなかったけど、俺みたいな人間は認識能力が壊れているから、ちょっと喋ってくれるだけの異性にも、常識的ではないほどに好意を抱いてしまうものなんだよ。
俺の視線に気がついたのか分からないけど、彼女が笑顔を向けてくれた。特に深い意味はないだろう。
「それにしても、本当に久しぶりですね。お変わりないですか?」
と、よくある切り口から彼女は近況を話し始めた。
修行の旅に出ていた彼女は、道中で冒険者の一行に加わったらしい。その一行はかなり自由気ままな旅をしていて、興味の向いた遺跡を探索したり、困っている人を助けて回っているそうだった。
相槌を打ちながら、俺は考えていた。何故、彼女はわざわざ俺のところに来てまで、こんな話をしているのだろう、と。
誰とでも仲良くしていた彼女なら、別に、俺とだってこういう話はするだろう。気がかりなの
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