主役だと言い張れる話 前編
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主役だっていう条件は、何だと思う?
自分自身の人生が、何かしらの物語だと呼べるのだとして。その物語の中で“主役”だって言えるためには、どういう条件が必要だと思う?
色々あるとは思う。何か目的があって、それを達成するために最も活躍した人間が主役。集団に所属していて、最も人望が厚いものが主役。生い立ちだとか、そういったものに凄く重要な謎や理由が存在していて、そういうものを解消したり、あるいは従ったりして生きた人間が主役。あるいは単に、異性から凄く好かれた人間が主役だ、っていうのでもいいね。うん、色々ある。
別に、どれかに絞らなきゃいけないってわけじゃない。たくさんの主役たる理由を持っていたっていいし、どれが“主役らしい”かは、人それぞれだろう。それでいいと思う。
だから、これは提案だ。俺にとっては、こういうものが主役だと思う、っていうね。
──何かを変えようとした人間、それが主役だ。
退屈で見栄えのしない仕事を続けていたある日のこと。一つの転機が訪れた。俺の家を、一人の女性が訪ねてきた。
何事かって思うだろう? だって、今の今まで──つまり今までの話の中で──異性との関係性どころか、友人関係さえ希薄だったっていうのに、いきなり女の人が家に来るんだから。そりゃあ、驚くだろうね。俺だって驚いた。
いつもなら、セールスだとか、宗教勧誘だとか、そういうものだと思うし、実際そうだ──ああ、こっちの世界の宗教勧誘は、そんなに変でもないけどね。
けど、今回は違った。相手は、見知った女性だったからね。
訪ねてきたのは、昔の同僚だった。修行の旅に出るとかなんとかで、退職してしまった人だ。
とても明るい人柄で、誰からも好かれていた。誰からも好かれる、なんてことが現実にあるとは思わなかったけど、確かに彼女は誰からも好かれていた。裏表のない性格、耳通りの良い声に朗らかな口調。笑顔が似合い、またそれを分け隔てなく見せてくれる。気配りができて、物事を見る目に優しさがあった。弱者を庇い、不正を嫌うが、それでいてそれを行なってしまう人の機微を理解できる賢さがあった。
そして、彼女の性質が理解できる程度に、彼女は俺と接してくれていた。俺が会話できる、数少ない女性だった。だから、退職してしまったときは、かなりショックだった。
誤解を生まないように念のため言っておくけど、客観的に見れば親友でも恋人でもないどころか、友人かどうかも怪しいような状態だったよ。だって、仕事場で喋るだけだからね。でも、俺にとってはかなり貴重だったよ。
「お久しぶりです!」
俺の顔を見るなり、彼女は屈託のない笑顔を浮かべた。それを見て、彼女の内面には何も変わりがないことがわかり、安心した。
「……ひ、久しぶり、です」
声を絞り出すのに
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