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異世界転移=主役とは限らない?
異世界に馴染んでしまったあたりの話
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そのときも俺は引きずっていた。つまり、俺はこのときになってもまだ“異世界人”だった。
 問題はあったけれど、金は稼げていた。だから、生きてはいけた。これを良かったと思うか、思わないかは、人によりそうだ。俺は……どっちかな。
 存在することと、生きるってことは似ていて違うからね。だから言い方を変えると、俺は存在はできていたけど、生きていたかは分からない。
 それでも振り返ってみれば、元いた世界よりは多分、マシだったと思う。それぐらい酷い場所だったからね、あそこは。魔法が使える分、こっちの方がよっぽどいい。
 けど、当時の俺はそう考えていなかった。どっちの世界も人間ってものが存在している以上、同じ問題が横たわっていて、俺という人間はそれに対処不可能で、永遠に苦しむことになる。前も今も、生きるのが辛いってことが変わってない、それに比べれば魔法の有無なんて些細なことだ──ってね。
 まぁ、間違っちゃいない。魔法があるからって、異世界だからって、何かが変わるわけじゃないからね。
 それでも、実際、この頃は学生時代よりは良かった。学生時代とは違って、この頃なら語るに足る“俺のいる話”は少しぐらいある。ゴーレム退治とかだって、一人前の魔法使いとかなら普通にやる仕事だしね。宮廷魔術師が逃した合成獣の退治をした話はスリリングだし、同僚が間違えてお偉いさんの頭の毛がなくなる魔法をかけた話なんてのは、今でも笑える。
 でも、こういった経験は俺の慰めにはならなかった。そりゃあ、生きていれば笑える話の一つができたり、ちょっとぐらい、いい経験をしたりするだろう? でも、だからって問題が消えるわけじゃない。ときには慰めになることもあるけど、いつもじゃない。
 結局、楽しかったのは異世界にきて少し経ったあたりだけ。後はひたすら下り坂さ。異世界にきたら主役になれると思っていたけど、主役になるには元々、主役である必要があったんだ。俺は、ダメだったね。

 ──それでも、一つだけ、俺が主役だったと言い張れる話がある。次は、その話を始めよう。
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