異世界に馴染んでしまったあたりの話
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
知り合ってみたりしなかったのか、って。
でも、ちょっと考えてみてほしい。そんなことは、元いた世界でもできたことなんだよ。異世界にくる前、元々いた世界のことを、全部知ってたってわけじゃない。そこでも自分の知らない物事や、新しい何かを教えてくれるかもしれない新しい知人や友人を手に入れる余地はあったわけだ。
けど、俺はそうしなかった。日々の生活を退屈だとは思いながらも、それを変える努力をしたりはしなかった。
どうしてかって? それはきっと、大変なことだからだよ。
新しいことを始めたり、新しい友人を作ったりすることは、そのときに自分が置かれていた境遇を良く思おうと努力するのとは、違った種類の勇気や気力が必要になる。俺には、どっちの努力もできなかった。
多分、俺がいた世界のほとんどの人は同じだったと思うよ。あるいは、俺だけが特別に怠惰だったか。
何にせよ、元いた世界でできなかったことが、異世界にきたからってできるようになるわけじゃない。俺が俺であることは、何にも変わっていないからね。
ただの言い訳だって言われれば、そうかもしれない。けど、人間なんて、きっとそんなもんさ。
そういうわけで、毎日の授業をこなしていくだけで日々は過ぎていった。それで気がついたら、もう卒業さ。
そう、魔法学校で話せる内容はたったのこれだけ。友人との騒動だとか、授業中の面白いトラブルだとか、あるいは恋愛事情だとか、そういったことが話せたなら、俺も良かったんだけど。ないことは話せないからね。
残酷というべきか当然というべきか、異世界らしい事件を起こしたりしている学生もいたよ。勝手に教わってない魔法を使って、倉庫を吹き飛ばしたりとか、近所に出てきたゴーレムだか何だかを自主的に倒したりだとか、そういう話は存在した。でも、それは俺の話じゃないんだ。
そこに、俺はいなかったんだよ。
卒業する頃には、俺も、一応は普通の魔法使いになってた。つまり、魔法を使って金を稼げるようになってた。
魔法学校っていうちゃんとしたところを出ていたおかげで、仕事にありつくのはそんなに難しくなかった。ギルドと呼ばれる団体に所属して、そこに舞い込む依頼を解決するっていう仕事についていた。
依頼内容は色々あった。物を直してくれ、暴れてる獣を倒してくれ、魔法を教えてくれ、旅をするから護衛をしてくれ──色々だ。大きい仕事だと、宮廷魔術師の手伝いなんてのもあった。
仕事が楽しかったかと言われると、これもちょっと微妙なところだな。実際、魔法を使って何かをするっていうのは楽しめた。楽しめなかったのは、それ以外さ。
つまり、人とのやりとりだ。同僚との会話、先輩や後輩との関係性、上司との相性、顧客への態度。学生時代と同じ問題を、もっと言えば、元いた世界のときと同じ問題を、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ