異世界に来たばかりのときの話
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ど、元いた世界じゃ、異世界に行くっていう創作物が多かったのさ。ある意味じゃシミュレーションだよ。おかげで、俺もパニックにならずに済んだけどね。
そう、その中でも一番ありふれていたのが、転移した人間が何か能力を獲得するってものだった。それもかなり凄い能力をね。ただ、ほとんどの場合、それは自覚的だ。能力は誰かから与えられるもので、その人物が、自分の能力が分からない、っていうのは稀だった。たまにあったけど、大抵はすぐに気がつく。
で、お察しのとおり、俺にその能力はなかった。どうやらチート系主人公じゃないらしいと、すぐに気がついた……チートって何かって? 後で教えるよ。
何かしらの能力を持っていないと気がついたから、次に考えたのは安全の確保だった。持っていた知識じゃ、転移した人間は序盤からかなり楽ができるか、序盤はひどい目に遭うか、のどっちかだった。能力を持っていない以上、ひどい目に遭ってもおかしくない。盗賊やら強盗やらに絡まれる、とかね。そうなったら一巻の終わりだ。
問題だったのは、能力がない上に、ついでに知識もないことだ。どういった行動が何をもたらすのか、何も分からない。何か行動を思いついたとしても、それの良し悪しを評価する基準を持っていなかったんだ。異世界人なんだから当たり前だけどね。
結局、うんうんと悩んで、とりあえず路地裏を出ることにした。よくよく考えれば元の世界に帰りたいわけでもなかったし、失うものなんて何もない、最悪でも死ぬだけだ……そう考えたら気が楽になって、とにかく何かしようってことになった。自棄になったと言われれば、そうかもしれない。
ある意味じゃ、このときの行動がその後の全てを決定したと言えるかもしれない。正確には、この行動によって出くわした人間によって。
路地裏を出て表通りに出た。元いた世界で言うところの、外国の風景が広がっていた。幅の広い通りは、路地裏と同じように石畳で舗装されていて、通りにはいくつもの建物が面していた。住宅街だったらしく、人通りは少なかった。まぁ、どんな風景だったかは、なんでもいいね。
さてどうしようか、なんて思いながら一歩を踏み出した。そこに、声をかけられたんだ。
「すいません、そこの方」
丁寧な口調に穏やかな声色だった。あぁ、言葉は通じるのか、と安心した瞬間でもあった。通じないとしたら大変だったからね。
振り返った先にいたのは一人の男性だった。当時は異世界人の……俺から見た異世界人の風貌はよく知らなかったから分からなかったけど、今思い返すと、あれは確か30代ぐらいの人だったと思う。
声をかけられた俺は戸惑ったよ。理由はたくさんあった。一つはまさしく、思いがけなかったからだ。路地裏から出た直後
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