508部分:第三十話 ワルキューレの騎行その七
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第三十話 ワルキューレの騎行その七
「動員令にサインされましたし」
「ですから最早です」
「そのことは承知されてるのでは」
「承知はしています」
それはだと言う王だった。しかしだ。
憂いのある顔のままでだ。王は言うのである。
「しかしです」
「しかし?」
「しかしとは」
「その決断がいいかどうかは」
それはだと言うのだ。
「私は」
「左様ですか」
「そうなのですか」
「選択肢は一つしかありません」
王にはわかっていた。既に。
「私はそれを選んだだけです」
「バイエルンの為に」
「ひいてはドイツの為に」
「今はバイエルンが第一にきています」
ドイツよりもだ。そうなっているのは確かだった。
しかしだ。それがこれからどうなるか。王にはわかっていた。
「やがてはドイツが第一になります」
「プロイセンが主導するドイツが」
「その国がですか」
「そうです。ドイツなのです」
こう言ってだった。王は憂いを見せ続ける。
そのうえで臣民達に応えていた。しかしその臣民達もこれからはドイツの臣民、プロイセンの臣民になっていくこともだ。王は見ていた。
その王がだ。遂にだった。
ワルキューレを観る。バイエルンでは。
誰もがそのワルキューレの初演についてだ。こんなことを話していた。
「まさか本当にな」
「そうだ。陛下が上演される」
「ワーグナー氏の反対を押し切って」
「そうするとは」
このことがだ。誰もがまずは信じられなかった。
「ワーグナー氏はまだ反対しているが」
「それでもか」
「初演までされた」
「あのワーグナー氏の言うことなら何でも聞く陛下が」
「そうされるとは」
「それ程御覧になられたいのか」
こう言ったのだ。
「あの方はあの歌劇を」
「そうされたいのか」
「あの作品の第一夜になるが」
「それを御覧になられか」
「やがては」
「全ての作品をか」
「御自身で上演されるのだろうか」
こうした考えも出て来ていた。王のこれからへの予測だ。
「ワーグナー氏が今の様に反対されても」
「それでも」
王が何かが違ってきていることをだ。この初演からも誰もが感じていた。しかしだった。
王はその初演を迎えた。遂にだ。ロイヤルボックスからそれを観るのだった。
まずは誰かが何処からか逃げる音楽だった。そして。
城を思わせるものになり高らかになりだ。幕が開けた。
その舞台の中では神話が映し出された。神々が出てだ。そうして心と心、剣と剣の戦いが繰り広げられる。それを観てだった。
王は静かにだ。こう呟いた。
「美しい」
「満足しておられますか」
「この劇に」
「はい」
そうだとだ。王は侍従達に答えた。
「やはり素晴らしいです」
「
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