暁 〜小説投稿サイト〜
永遠の謎
508部分:第三十話 ワルキューレの騎行その七
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第三十話 ワルキューレの騎行その七

「動員令にサインされましたし」
「ですから最早です」
「そのことは承知されてるのでは」
「承知はしています」
 それはだと言う王だった。しかしだ。
 憂いのある顔のままでだ。王は言うのである。
「しかしです」
「しかし?」
「しかしとは」
「その決断がいいかどうかは」
 それはだと言うのだ。
「私は」
「左様ですか」
「そうなのですか」
「選択肢は一つしかありません」
 王にはわかっていた。既に。
「私はそれを選んだだけです」
「バイエルンの為に」
「ひいてはドイツの為に」
「今はバイエルンが第一にきています」
 ドイツよりもだ。そうなっているのは確かだった。
 しかしだ。それがこれからどうなるか。王にはわかっていた。
「やがてはドイツが第一になります」
「プロイセンが主導するドイツが」
「その国がですか」
「そうです。ドイツなのです」
 こう言ってだった。王は憂いを見せ続ける。
 そのうえで臣民達に応えていた。しかしその臣民達もこれからはドイツの臣民、プロイセンの臣民になっていくこともだ。王は見ていた。
 その王がだ。遂にだった。
 ワルキューレを観る。バイエルンでは。
 誰もがそのワルキューレの初演についてだ。こんなことを話していた。
「まさか本当にな」
「そうだ。陛下が上演される」
「ワーグナー氏の反対を押し切って」
「そうするとは」
 このことがだ。誰もがまずは信じられなかった。
「ワーグナー氏はまだ反対しているが」
「それでもか」
「初演までされた」
「あのワーグナー氏の言うことなら何でも聞く陛下が」
「そうされるとは」
「それ程御覧になられたいのか」
 こう言ったのだ。
「あの方はあの歌劇を」
「そうされたいのか」
「あの作品の第一夜になるが」
「それを御覧になられか」
「やがては」
「全ての作品をか」
「御自身で上演されるのだろうか」
 こうした考えも出て来ていた。王のこれからへの予測だ。
「ワーグナー氏が今の様に反対されても」
「それでも」
 王が何かが違ってきていることをだ。この初演からも誰もが感じていた。しかしだった。
 王はその初演を迎えた。遂にだ。ロイヤルボックスからそれを観るのだった。
 まずは誰かが何処からか逃げる音楽だった。そして。
 城を思わせるものになり高らかになりだ。幕が開けた。
 その舞台の中では神話が映し出された。神々が出てだ。そうして心と心、剣と剣の戦いが繰り広げられる。それを観てだった。
 王は静かにだ。こう呟いた。
「美しい」
「満足しておられますか」
「この劇に」
「はい」
 そうだとだ。王は侍従達に答えた。
「やはり素晴らしいです」

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ