第十四話 俺は君達を知らないんだが……
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帝国暦487年 11月 25日 オーディン 新無憂宮 黒真珠の間 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
古風なラッパの音が黒真珠の間に響いた。どうやら始まるらしい。参列者は皆姿勢を正した筈だ。控室に居る俺も姿勢を正した。
「全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なる銀河帝国フリードリヒ四世陛下の御入来」
式部官の声と帝国国歌の荘重な音楽が聞こえてきた。参列者は頭を深々と下げた筈だ。俺も頭を下げた。この部屋には隠しカメラが有ると言われているのだ。帝国は基本的に監視社会なのだよ。特に儀礼には煩い。国歌が終わってから頭を上げた。多分フリードリヒ四世は椅子に座っているだろう。
「帝国軍中将、エーリッヒ・ヴァレンシュタイン殿」
控室に居る俺を式部官が呼ぶ声が聞こえた。しょうがないな、行くか。控室を出て大勢の文官、武官、貴族が並ぶ中、皇帝フリードリヒ四世を目指して歩く。視線が痛いわ。俺ってどう見えるんだろう? 二十二歳で大将に昇進してるんだけど士官学校校長なんだよな。おまけに向こう十年は異動しない。そして二つ目の双頭鷲武勲章を授与される……。辞退したのも入れれば三つ目か。わけがわからん。俺って何なの?
何時の間にかフリードリヒ四世の前に着いていた。膝を着いて頭を下げた。
「ヴァレンシュタインか、久しいの」
「はっ」
「そちは士官学校の校長だが良く武勲を立てるの」
「畏れ入りまする」
別に立てようと思ったんじゃない。気が付いたらこうなってるんだ。
「戦場に出ているのか?」
「そのような事はございませぬ」
御願いだから早く勲章を頂戴! あんたと会話なんてしたら貴族共がまた俺を敵視するだろう。俺を連中の敵意から解放してくれ。
「そうか、今日は辞退はせぬのか」
「はっ、軍務尚書閣下に固く止められております」
面倒臭くなって本当の事を言ったらフリードリヒ四世が笑い出した。何で笑えるんだ?
「そうか、案ぜずとも良いぞ。卒業式には必ず行く」
「有難き幸せ」
……全然嬉しくない。有難くも無い。
「その武勲を賞しそちを帝国軍大将に任じ双頭鷲武勲章を授ける。立つが良い」
立ち上がると皇帝フリードリヒ四世が俺の胸に勲章を付けた。名誉なんだろうけど少しも嬉しくない。勲章の授与は終わったがこれからフリードリヒ四世の退出を見送らなければならない。参列者に割り込んで見送るのだが割り込む場所を見つけるのはそれほど難しい事では無かった。参列者は階級順に並んでいる、新任の大将の俺は大将の一番最後に並べばいい。
もっとも並んで直ぐに後悔した。傍に居るのはクライストとヴァルテンベルク、第五次イゼルローン要塞攻防戦の味方殺しコンビだった。恨んでいるんだろうな、と思った
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