506部分:第三十話 ワルキューレの騎行その五
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第三十話 ワルキューレの騎行その五
王は既に署名していた。動員令に。そうしてバイエルンもまたフランスと戦うことになった。そのこともまた定まってしまっていた。
しかしこのことにはだ。バイエルンの者は賛成した。そして言うのだった。
「フランスを倒せ!」
「バイエルン万歳!」
「ドイツ万歳!」
こう言うのである。彼等はだ。
プロイセンへの反発をそのままにしてそのプロイセンが主導するフランスとの戦争はいいとする。その彼等の熱狂的な声にだ。
王は王宮のバルコニーから見ていた。その彼等の熱狂的な声は王にも届いている。
その彼等に何度も応えながらだ。王はまた言った。
「ドイツの。祖国への情熱はいいのだ」
「ですが戦争はですか」
「好きにはなれずにですね」
「そうです。やはりそれは」
どうしてもだ。王は戦いは好きにはなれなかった。
だがそれでもだった。今の彼等の熱狂には応えていた。そうしてだ。
その熱狂の中でだ。あるものを見たのだった。
「あれは」
「?あれは」
「あれはといいますと」
「ワルキューレでしょうか」
それを見たというのだ。
「まさか」
「ワルキューレ!?」
「ワルキューレといいますと」
「あのワーグナーの歌劇の」
こう言うのである。
「ヒロインですが」
「ああ、ブリュンヒルテですね」
「あの勇敢な乙女ですか」
「いる筈がありませんね」
だがすぐにだ。王はこう結論を出した。
そしてだ。また見るとだ。
いなかった。そのワルキューレの姿は何処にもなかった。それでもだ。
王はだ。すぐにこう述べた。
「いえ、あれは」
「あれは?」
「ワルキューレは私に教えてくれたのです」
王にとってはだ。そうしたことだった。
「この戦争はです」
「フランスとの戦争ですか」
「これからはじまるその戦争がですか」
「勝ちます」
そのことをだ。ワルキューレに教えられたというのだ。
「間違いなくです」
「ですがフランスは強いです」
「やはり欧州でも屈指の大国です」
「そのフランスに果たして」
「勝てるかどうか」
「いえ、勝ちます」
確信した言葉だった。
「この戦争は間違いなく」
「では、ですね」
「我々も安心して参戦し」
「そしてプロイセンと共に戦うべきですね」
「既に署名しています」
動員令にだ。賽は投げられているのだ。
「ですからそれはもうです」
「はい、決められているから」
「もう迷うことなくですね」
「我が国は戦うべきですね」
「その通りです。ですが」
民衆の熱気の中で。王は言っていく。
熱気の中にいても王だけは何処か冷めている。その冷めた中での言葉だった。
「戦いは避けたかったです」
「陛下はやはり戦い
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ