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永遠の謎
495部分:第二十九話 人も羨む剣その十七
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第二十九話 人も羨む剣その十七

「地獄は陛下に相応しい世界ではありません」
「私は罪を犯しているが」
「人は誰も罪を犯すものです」
「それでもか」
「善と悪は天秤の中にあります」
 この考えはギリシア神話から、もっと言えばエジプト神話から変わらないことだ。その二つを天秤にかけ重い方に審判が傾くのだ。
 その審判において王はどうかというと。
「陛下の善は遥かに重いのです」
「悪よりもか」
「ワーグナー氏についてもビスマルク卿についてもです」
 この二人もそうだというのだ。
「彼等もまた罪を犯しています」
「そうだな。その悪は大きい」
 ワーグナーにしてもビスマルクにしてもその資質が巨大な故にだ。その悪もまた大きいものになる。そのしていることもなのだ。
 しかしだ。その悪と共にだとだ。王は言った。
「だがそれ以上に」
「ワーグナー氏は偉大な芸術を残します」
「そしてビスマルク卿はドイツをだな」
「その二つは善です」
 まさにだ。それだと騎士は言った。
「ですから」
「天界にか」
「あの方々は行かれます」
「シシィもだな」
 オーストリア皇后もだ。王は話に出した。
「彼女もまた」
「そうです。その結末についてはあえて申しませんが」
「いや、それはわかる」
「おわかりですか」
「そうだ。シシィは安穏には生きられてはいない」
 放浪の中に生きている。それならばだというのだ。
「その死も安穏なものではないだろう」
「その通りです。あの方は」
「今の欧州は騒がしい」
 それがだ。皇后にそのまま影響するというのだ。
「そしてそれによりだ」
「あの方は御命を」
「そうなるだろう」
 王は既に皇后の運命を見ていた。その青い目に。
 湖を思わせる澄んだ目にはそれが見えていた。それで言うのだった。
「そして私は」
「いえ、御自身のことは」
「考えるべきではないか」
「陛下はそれよりもです」
「その私の為すべきことを為すべきだな」
「そのことを御考えになって下さい」
 騎士は静かに王に話す。
「そうされて下さい」
「わかった。ではだ」
「はい、今はワルキューレを御覧になられ」
「それからだな。城だ」
 ワーグナーのだ。その城をだというのだ。
「築いていこう」
「そうされて下さい。では今は」
「帰るのだな」
「そうさせてもらいます」
 騎士は王に恭しく一礼してから述べた。
「また御会いしましょう」
「卿は私の導き手だな」
「そうなります。陛下が陛下に相応しい世界に来られる為の」
「そこが私が行く世界だな」
 天界でも地獄でもないそこだというのだ。
「私はダンテの世界には行けないか」
「ダンテは全てを見た訳ではありません」
 神曲のだ。それだというのだ
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