48部分:第四話 遠くから来たその一
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第四話 遠くから来たその一
第四話 遠くから来た
王は命じた。しかしだった。
ワーグナーを見つけることはだ。やはり容易ではなかった。
「庇護者の下を転々としているようです」
「官憲の目を潜り抜けることが上手でして」
「今一体何処にいるのか」
「全くわかりません」
「そうなのか」
王はそれを聞いてまずは頷いた。そしてそれからだった。こう言うのだった。
「それではだ」
「はい、それでは」
「どうされるのですか」
「ここで考えを変えるのだ」
これが王の言葉だった。
「いいか、ワーグナーはだ」
「はい、ワーグナーは」
「何でしょうか」
「何を好むか」
言うのはこのことだった。
「一体何を好むのか」
「何かとは」
「それは」
「何かですか」
「そうだ、ワーグナーが好むのは何か」
王はそれを周りの者に話す。
「それは何か。考えてみたことはあるか」
「ええと、それは」
「何かと言われますと」
「何でしょうか」
「そこまで考えたことは」
「森だ」
ここでだ。王はまた言った。
「森だ。ワーグナーの音楽にはだ」
「森がですか」
「あるのですか」
「ワーグナーの音楽の中には森があるのだ」
これは彼がワーグナーの音楽から感じ取っていることだった。彼の音楽の中にはだ。森があり王も今それを話すのであった。
「そう、森がだ」
「そうなのですか。森がですか」
「あるというのですか」
「城もあるがな」
次に言うのはこのことだった。
「城もだ。だが今考えるのは森だ」
「森といいますと」
「ではワーグナーは森にいる」
「そう仰るのですか」
「今はいないかも知れない」
王はワーグナーが各地を転々としていることを踏まえて述べた。
「しかしだ。手掛かりはある」
「ワーグナーの手掛かりがですね」
「それが」
「そうだ。森を探すといい」
そしてだ。王は次には人の名前を出した。それは。
「リヒトだな」
「フランツ=リヒトですか」
「そういえば彼はワーグナーの熱烈な擁護者でしたね」
「そうでしたね」
高名な音楽家である彼については誰もが知っていた。そうしてそのうえで話すのだった。リヒトとワーグナーが親密な関係にあることも知っていた。
それでだ。彼等も言うのだった。そして王もだった。
「あのローエングリンだが」
「あのオペラですか」
「そこにも何かありますか」
「ワーグナーはあのオペラを彼に贈っているのだ」
このことも話すのだった。
「もう一人の自分に、と書いてな」
「もう一人の自分ですか」
「ワーグナーはリヒトをそこまで認めているのですか」
「そしてリヒトもまた」
「ワーグナーを」
「そうだ、そうしている
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