第七章
[8]前話
男が街の郊外の畑の方に向かうのを見つつだ、ケンプは部下達に対して肩を落としてこう言った。
「聞いたな」
「はい、確かに」
「聞きました」
「負けたって」
「こうした状況だ」
散々に敗れベルリンも囲まれていてはというのだ。
「それならな」
「もうですね」
「敵も来ないし」
「戦う理由もないですね」
「そうなったな、結局俺達がな」
自分達が乗っていたティーゲルに顔を向けて見てだ、ケンプは部下達にさらに話した。
「最後まで戦っていたみたいだな」
「ヤーヴォから逃げて」
「そうしながら」
「そうしてでしたけれど」
「そうみたいだな、戦争が終わってもな」
降伏してからもというのだ。
「ずっと戦車動かしていたんだからな」
「そうなりますね、しかし」
「ドイツは負けたんですね」
「そうなったんですね」
「ああ、もうな」
それこそとだ、ケンプはティーゲルを見たまま部下達に話した。
「こいつを動かす理由もなくなったってことだ」
「まあどっちにしろあと少ししか動けなかったですが」
シュナイダーが言ってきた、操縦手である彼が。
「それでもですね」
「動かす理由はなくなったな」
「撃つこともないですね」
ホルンシュタインも言ってきた。
「まだ砲弾は少しありましたけれど」
「それでもな」
「撃つこともないです」
「通信が通じなくても」
それでもと言ったのはハイドリヒだった。
「もういいですね」
「部隊はどうなったか知りたいけれどな」
「戦争が終わったんですから」
「こいつの役目は終わった、そして俺達もな」
ケンプは自分達のことも話した。
「戦う理由はなくなった、じゃあ手を挙げてな」
「そうしてですね」
「そのうえで、ですね」
「街に入って」
「そこに来るとかいう連合軍に投降するか」
そうしようと話してだ、彼等は街に入った。後に残ったティーゲルはもう動かなかった。戦争で最後の最後まで動いていたティーゲルも遂にここで動く必要がなくなったのだった。
最後のティーゲル 完
2018・8・15
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