第一章
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黒い機関員
タイタニック号のことはよく知られている、だがこの船に一人だけ黒人が乗っていたことはあまり知られていない。
この黒人の名前をシャインという、アメリカ出身であり機関員として船に乗り込んでいたのである。
大柄で力が強くしかも頭の回転も速かった、その為彼を認める者もいたが何しろ当時は黒人差別が今よりも強かった時代だ。
その為彼を差別する者が多かった、客も乗員もこう言う者が多かった。
「何でこの船に黒人がいるんだ」
「黒人は船に乗せるな」
「見ているだけで不愉快だ」
「頼むから下ろしてくれ」
こうした言葉が出たがそれでもだった。
船長は優秀な機関員ということで彼を置いていた、それで航海にも参加していたがここでも彼は色々言われていた。
しかしそんな彼にも友人がいた、ボストン生まれのアッシュだ。
アッシュは典型的なワスプだ、白人でイングランド系しかもプロテスタントだ。人種的にはアメリカの支配階級にある。
だがそれでもだ、彼はその青い目と癖のある金髪の顔でこう言うのだった。背はシャイン程ではないが高く整った人形を思わせる顔立ちをしている。
「兄貴が優秀で俺は喧嘩ばかりしてな」
「それでか」
「気付いたら船乗りになっていてな」
笑って言うのだった。
「それでだよ」
「今はここにいるか」
「ああ、船乗りは喧嘩が常だろ」
「荒くれ者の集まりだからな」
「捕鯨船には乗ってないけれどな」
「ああ、白鯨か」
「あの本も読んださ、家に帰ると兄貴だけが味方でな」
その優秀な兄がというのだ。
「ハーバードで博士号を取って教授をやってるんだよ」
「そりゃ立派な兄さんだな」
「その兄貴が貸してくれた本さ、読んでると面白くてな」
「捕鯨船に憧れてたんだな」
「けれど今は捕鯨もな」
鯨の油を取る為に行われていたそれもというのだ。
「時代じゃないからな」
「それで石炭入れになってるんだな」
「船のな、親父とお袋は勘当同然でな」
「兄さんだけがか」
「色々よくしてくれるけれどな、まあ俺にはな」
笑ってシャインに言うのだった。
「この暮らしが性に合ってるさ」
「船乗りにか」
「ああ、あんたにも会えたしな」
「俺は黒人だがな」
「黒人だけれどいい船乗りだろ、白鯨だって色々な奴が船に乗ってるさ」
その作品ではというのだ。
「それでも一緒にやっている、白人がどうとかな」
「船乗りだとか」
「意味ないさ、俺達の世界は上品な世界じゃない」
お世辞にもというのだ。
「アメリカでも底の世界だ」
「実際に船の底にいるしな」
シャインもアッシュに笑って返した。
「これより下なんてそれこそギャングとかだな」
「犯罪の世界だな」
「それ位だな」
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