第五章
[8]前話
「これで」
「娘もそれでいいな」
「はい、ですが」
「メラニオンの弓の腕か」
「恐ろしいものです」
「それは当然のこと、我が師はアポロン神なのだからな」
ここでメラニオンはこのことを話した。
「私の武芸は全てアポロン神に伝えられたのだ」
「そうだったの」
「そう、そなたの求婚の話を聞いてすぐにだ」
「アポロン神に頼んだというの」
「アフロディーテの神殿でどうすればいいのか聞くとアポロン神を紹介された。そしてその師事を受け」
「己を鍛えたというの」
「この弓も然り、弓は昔から励んでいたが」
無論他の武芸もだ、彼もまたアタランテと同じ血を引いているということか。
「鍛えなおした、そのうえでだ」
「私に求婚をしたと」
「その通りだ」
こうアタランテに答えた。
「そうしてそなたに勝ったのだ」
「そうだったのか、しかし」
今度はアタランテがメラニオンに対して言った。
「私に負け越せば心臓を射抜かれていたというのに」
「勝つ自信があったからそうした」
アポロンに鍛えなおされてだ。
「絶対のそれがな」
「そうだったのね、しかし私も」
「何だ」
「実は心臓を射抜くつもりはなかったわ」
微笑んでだ、今その真実を話した。
「負け越した相手は軽く侮辱して帰すつもりだったわ」
「そうだったのか」
「負け越せば死ぬと言えばそれだけで臆病な私に相応しくない者は尻込みするわ」
敗れれば命を失い、そのことに退いてというのだ。臆病な者はギリシアでは英雄ではないと考えられていてアタランテも英雄でない者は自分の夫に相応しくないと考えているということだ。
「それでふるいにかけていたわ」
「そして実際にそうなったか」
「そう、私の読み通りに」
「それでよしとしていたか」
「ええ、けれど貴方は私に挑んだ。それだけで」
その時点でというのだ。
「貴方は勇気があったわ。そして実際に私に全ての武芸で勝った」
「それならばか」
「これ以上はない相手。では」
「これからだな」
「貴方の妻に」
アタランテは微笑んでメラニオンの前に片膝をついて言った。
「英雄に相応しい勇気と私以上の武芸を備えた貴方に」
「ではな」
メラニオンも微笑んで応えた、こうしてだった。
二人は王と王妃だけでなくアルカディアの全ての者達から祝福を受けて結ばれた。メラニオンがアルカディアの王となりアタランテが王妃となった時アルカディアを攻める国はなかった。そうして二人の頃にアルカディアはギリシアにおいてこの上なく強い国となったという。全ては神話の世界の話である。
恐ろしい王女 完
2018・7・12
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