第二章
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「その条件を下げないと」
「私は結婚出来ないというのですか」
「そなたに全ての武芸で勝てる者なぞいません」
母として言い切った、みれば髪の毛の色と質それに目の色は母のものだ。だが精悍で整った顔立ちと体格は父親譲りだ。その娘に言った言葉だ。、
「ほぼ誰もが負け越します」
「だからですか」
「そなたに求婚する者がいなくなったのです」
「世の男は惰弱な者ばかりですね」
「勇気がないというのですか」
「はい、勇気のない者なぞ夫に持っても」
それでもとだ、アタランテは言うのだった。
「何にもなりません」
「だからですか」
「私はこの条件を取り下げません」
決して、と言うのだった。
「何があろうとも」
「全く、強情な奴だ」
「全くです」
両親は共にそのアタランテに困惑した顔を見せた。だが。
彼女に求婚する者はギリシアにも周りの地域にもいなくなった、彼女の美貌は知られる様になっても。
だがその中でだ、彼の従兄であるメラニオンが名乗りを挙げた。見ればアタランテ以上に長身で精悍な顔立ちをしており逞しい身体をしている。
その彼がだ、王宮でアタランテを前にして父王と王妃に言った。
「私がです」
「まさかと思うが」
「そなたがですか」
「はい、アタランテに求婚し」
そしてと言うのだった。
「そのうえで」
「我が娘を妻とするか」
「そうするというのですね」
「はい」
こう自分の叔父と叔母に答えたのだった。
「そうさせて頂きます」
「そう言うがだ」
イアソスは自分の甥に心配する顔で答えた。
「若し勝負に負け越せばだ」
「彼女の弓矢で、ですね」
メラニオンはまたアタランテを見つつ応えた。
「心臓を貫かれ」
「死ぬのだぞ」
「そうですね」
「アタランテの弓は外れない」
イアソスも言い切った。
「まさに百発百中だ」
「いえ、百発放てば遠間にいる素早い兎ならば一発は外しています」
アタランテは自分の腕について素直に答えた。
「ですから誰かが私に勝つことは出来るのです」
「弓矢でもか」
「私以上の弓の腕はアルテミス女神か女神の兄アポロン神だけです」
「それでは百発百中も同じだ」
父王は娘の話を聞いてあらためて述べた。
「それではな、だからだ」
「私が挑んでもですか」
「死ぬぞ、ましてそなたはそうせずともだ」
イアソスは甥にさらに言った。
「子に男がいないわしの跡を継ぐではないか」
「そしてこのアルカディアの王となる」
「そうだ、わしの甥としてな」
アタランテの従兄、子に男子がいないイアソスにとってはまさに第一の王位継承者であり既に跡継ぎにも定めている。
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