第一章
[2]次話
岳王異伝
この頃宋は繁栄の極みにあり科挙に及第した者が国政の中枢を占め武官達の地位は低いままだった。
だがその中で岳飛字は鵬挙という若者は武を志し武芸にも鍛錬にも励んでいた。彼の友人はその彼に対して言った。
「君は頭もよく文章も見事なのだから」
「武官ではなくてか」
「そうだ、学問に励んでだ」
そうしてというのだ。
「科挙の及第を目指すべきではないのか」
「科挙か」
「そうだ、君なら進士にもなれるだろう」
岳飛の頭のよさならというのだ、文章が出来るだけでなく実にもの覚えがよく兵法の書もよく知っていることからわかることだった。
「だからどうだ」
「いや、いざという時はだ」
岳飛は自分に文を進める友に笑って答えた。
「やはり戦になるからな」
「だからか」
「戦で勝って宋を護ろうと思えば」
「武か」
「そうだ、だから私はだ」
こう考えているからだというのだ。
「文ではなくな」
「武を志しているのか」
「そうなのだ、優れた武人となりな」
「そのうえで火急の時はか」
「宋を護りたいのだ」
「そう考えているのか」
「そうした時が来ないことを祈るがな」
それでもとだ、岳飛はあえて武の道を選んでいた。そのうえで日々励んでいた。
その中で彼はある噂を聞いた、それは実に面白い噂だった。
「麒麟が出るのか」
「そうだ、東京の外掘の西の門に満月の夜にな」
友人が岳飛にその噂を話した。
「出るという」
「そうか、麒麟か」
「それで何でも麒麟の背に乗ることが出来たら」
友人は岳飛に今度は麒麟自体のことを話した。
「麒麟がその背に乗る者の未来を見せてくれるそうだ」
「未来をか」
「そうらしい」
「よし、ではだ」
岳飛は友人の話をここまで聞いて強い声で言った。
「私は是非だ」
「麒麟に会いたいか」
「そして会ってだ」
「背に乗ってか」
「私がことを為せるかどうかをな」
それをというのだ。
「麒麟に聞きたい」
「そうか、ではな」
「ああ、明日にでもな」
「東京に出発してか」
「西の門に行ってな」
外堀のというのだ。
「麒麟に会おう」
「そうするか、しかしな」
「しかし?」
「麒麟に会えること自体が凄い話だ」
友人はその麒麟の話をさらにした。
「優れた人物の前にしか姿を現わさないという」
「ああ、そうだったな」
「千年に一度しか姿を現わさないともいう」
このことも言う彼だった。
「そうまで言われている存在だ」
「会えること自体が凄いか」
「それでも会いに行くか」
「私は決めた」
これが岳飛の返事だった、引き締まった端整な顔での言葉だ。
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