第二章
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「そうしよう」
「その場所は何処なのかしら」
「まずは東プロイセンに行き」
そしてと言うのだった。
「そしてドレスデンにでも行くか」
「そこに行くのね」
「そうしてまた働こう」
「わかったわ、けれど」
ミンナは夫のその広い額と鋭い目が目立つ顔をみつつこう言った、面長で頬髯が目立つ。小柄な身体だが妙な威圧感がある。
「貴方の浪費癖が」
「その話かい」
「ええ、それに引かないところが」
「芸術で引いてどうするんだ」
ワーグナーは妻に強い声で言葉を返した。
「一体」
「芸術は完全でなければならないのね」
「そう、新しく美しく」
そしてというのだ。
「素晴らしいものでなければならないのだよ」
「だからなのね」
「私はあくまで主張する」
芸術、それをというのだ。
「そしてだ」
「貴方の芸術を完成させるのね」
「何処でもだよ」
まさにというのだ。
「私は、そして私の芸術を完全に世に出す為にも」
「今はなのね」
「リガを出てだ」
そうしてというのだ。
「新しい場所でまた一旗揚げよう」
「仕方ないわね」
ミンナは夫の借金と芸術については引かないその性格に辟易しながらも妻ということで仕方なくついて行くことにした。
港から船でリガを出るが。
海は荒れていた、暴風に津波、そして大雨でだった。
船は揺れに揺れた、それでミンナは夫に言った。
「この荒れ方だと」
「船が沈んでもかい」
「ええ、おかしくないわ」
「大丈夫だ」
ワーグナーはミンナにその大嵐の中で言った。
「神が護って下さる」
「だからなのね」
「そうだ、何があっても」
それでもと言うのだった。
「この船は沈まない、そしてだ」
「貴方もなのね」
「そうだ、死なない」
絶対にと言う言葉だった。
「私にはやるべきことがあるからな」
「貴方の芸術を完成させる」
「そうだ、だからだ」
それでと言うのだ。
「私は必ずだ」
「この嵐もなのね」
「乗り越える、そうして東プロイセンに行き」
そしてというのだ。
「そこでまた音楽を行う」
「絶対になのね」
「この程度の嵐で私をどうにか出来るものか」
船は大津波の中を左右に乱れ揺れている、そうして雨も酷いものだ。だがその中でワーグナーだけは。
船は沈まないと言いつつだ、嵐の海を見ていた。
その海、暗い空からひたすら豪雨と暴風が吹き荒れ黒い海が白波を立てて暴れるその中でだ。彼は確かに見た。
一隻の帆船があった、その帆船は帆もマストも荒れていて今まさに沈まんばかりだ。だがこの大嵐の中を。
その船は普通に進んでいた、ミンナはその船を見て言った。
「幽霊船!?」
「間違いない」
ワーグナーもその船を見て言った。
「あれは幽霊
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