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一条桟敷
第一章

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               一条桟敷
 平安時代のことである、都の一条大路にある男が馴染みの女を夜に桟敷屋に連れ込んだ、そうしてその女に言った。
「この場所はな」
「誰も来ないのですか」
「そうなのだ、私以外には誰も知らない」
 まさにというのだ。
「そうした場所でな」
「だから今宵はここに入ったのですか」
「誰にも見付からず」
 そのうえでというのだ。
「何かと出来る、こうした場所があればな」
「有り難いですね」
「私もいい場所を見付けた」
 男は笑って言った、見れば青く染めた絹の服に整った顔立ちをしている、烏帽子も上等のものである。
 女も女で着ているものがよく顔立ちには品がある、二人共都でも結構な身分であることがわかる。その二人がだ。
 二人で夜を過ごした、そうしてだった。
 明け方近くになると急にだ、風が出て。
 雨が降りはじめた、しかもそのどちらもだ。
 強くなった、それで男は風と雨が止むのを待とうと女に言った。
「その間は」
「待っている間は」
「貴女は寝られよ」
 女に笑って話した。
「そうされよ」
「では貴方は」
「気が向いたら寝るにしても」
 それでもというのだ。
「どうもこの音では」
「風と雨の」
「寝られるかどうか」
 微妙だというのだ。
「それで暫くは」
「起きておられますか」
「そうするかも知れない」
 こう女に話した。
「しかしな」
「私はですね」
「安心して寝てもらいたい」
 女を気遣っての言葉だった。
「是非」
「それでは」
 女は男の言葉に頷いた、そしてだった。
 女は休み男は暫し起きていた、するとだった。
 外の嵐と雨の音は止まない、だがその中で。
 ふと人の声が聞こえてきた、その声はというと。
「諸行無常」
「諸行無常?」
 男はその声を確かに聞いた、それでだった。
 妙に思って外を見た、するとだった。
 路に家々よりも背の高い大男が歩いていた、その身なりは民のものであるがとかく背は高くだった。
 顔は馬だった、馬に似ているのではなく馬そのものだった。
 その男を見てだ、男は驚いてだった。
 慌てて家の中に戻りそうして窓も扉も閉めて女の傍に刀を抜いて構えた、先程見た異形の者が来た時に備えてだ。
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