第四章
[8]前話
「お母さんピアスしたことある?」
「ないわよ」
私は娘にすぐに答えた。
「三回位しようと思ったことがあるけれど」
「どうしてしなかったの?」
「その度に色々言われたからよ」
娘にこのことも話した。
「それでなの」
「ピアスしなかったの」
「そう、結局ね」
「そうなの」
「耳に悪いとか危ないとか色々ね」
目が見えなくなるという話は幾ら何でもそれは娘に変なことを思わせるだろうと思って言わなかった。
「言われてなの」
「それでしなかったの」
「そう、お母さんはね」
「あれ痛くない?」
娘は夫が結婚する前と同じことを言ってきた。
「耳に穴開けて」
「痛いでしょうね、やっぱり」
「痛い思いまでしてするものかしら」
「お洒落したい人はするのよ」
「私それがわからないの」
どうしてもとだ、娘は首を傾げながら言ってきた。
「そこまでするのって」
「そうした人もいるのよ、本当にね」
「お洒落の為に?」
「そうなの、そうした人も世の中にはいるのよ」
「わからないわ、私痛いの嫌いだから」
それでというのだ。
「そんなことしないわ」
「しないのね」
「うん、絶対にね」
何があってもという返事だった。
「痛い思いしなくてもお洒落って出来るわよね」
「ええ、それはね」
私自身そうだから言えた、別にそんなことをしなくてもお洒落は出来る。服なり他のアクセサリーなりでだ。
「出来るわ」
「じゃあね」
「ピアスはしないのね」
「絶対しないわ、あんなの」
娘は確かな声で言った、娘は私にそっくりの顔だ。けれどピアスについての考えが違っていた。そこは顔は同じでも違うと思って自然に笑顔になった。
それでだ、ついつい娘に笑ってこう言った。
「そのこと、ずっとかしら」
「ずっとよ、大人になってもよ」
ピアスを開ける様な年齢になってもというのだ。
「絶対にね」
「ピアスはしないのね」
「そうするわ」
娘は私に強い声で答えてくれた、けれど人の心は変わるものでそれは大人になってからもかしらと思った。けれどこのことは娘に内緒にしてだった。今は晩御飯の用意をした。この時つい厚いものに触ってしまい指を耳たぶにやった。ピアスをしていない耳たぶは程よく冷たくて火傷しかけた指はすぐに冷えて難を逃れた。触りやすくて柔らかいその耳たぶを触って。
ピ・ア・ス 完
2018・4・18
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