466部分:第二十八話 逃れられない苦しみその十
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第二十八話 逃れられない苦しみその十
「対していきます」
「それは対立ではなく」
「そうです。前に立っていきます」
これがプロイセンに対する王の選択だった。
「そうします」
「それが正しいのですが」
「多くの者はわかっていません」
これもだ。王の悩みだった。
「幾らプロイセンを嫌っても。ビスマルク卿はおられますし」
「そしてビスマルク卿こそは」
「プロイセンの為になる方なのです」
そのバイエルンの者の多くが嫌う彼こそはというのだ。
「何故ならあの方は欧州全体を見てドイツのことを考えておられるからです」
「そしてそれは」
「そうです。バイエルンのことでもあるのです」
ひいてはだ。そうなるのだった。
「だからこそです」
「あの方はバイエルンのことも常に考えてくれているのです」
「そして」
「そして?」
「私のことも」
そのこともだ。王はわかっていた。
「有り難いことに常に気にかけてくれています」
「バイエルン王である陛下を」
「そう。そのことを有り難く思っています」
「左様ですか」
「あの方もまた」
どうなのかというのだ。ビスマルクもだ。
「ローエングリンなのでしょうか」
「あの方もですか」
「はい、あの方もです」
ここでだ。
王は頭の中でだ。ビスマルクをローエングリンの姿にさせた。
そうしてだ。首相に述べた。
「私を気にかけてくれる。騎士なのでしょう」
「ワーグナー氏の生み出したあの騎士ですか」
「そうです。ワーグナーがハンス=ザックスであり」
ニュルンベルグのマイスタージンガーだ。観たばかりのこの壮大な作品のことは今も王の心に深く残っており一つの世界になっているのだ。
「シシィは」
「あの方もまた」
「鴎。鳥であり」
こうだ。皇后を呼んでいるのだ。
それと共にだ。皇后は何かというのだ。
「ローエングリン、彼を導く鳥であり」
「しかしビスマルク卿とはですね」
「関係がありません」
そこは違うというのだ。
「しかしそれでもです」
「あの方は鳥ですか」
「ジークフリートを森の中で導く小鳥なのです」
一見すると目立たないがだ。作中で重要な役を果たすだ。鳥達だというのだ。
「そうなのでしょう」
「その方々がですね」
「常に私のことを気にかけてくれています」
そうだというのだ。
「そのことは非常に有り難いです」
「人は誰かに気にかけてもらえることだけで幸せですね」
「はい、その通りだと思います」
人を嫌う様になっていた。だがそれでもそうしたことはわかっている王だった。
「しかし私はそれでも」
「陛下は」
「心が晴れることはありません」
それはだ。決してだというのだ。
こう話してだ。さらにだ。首相に述
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