458部分:第二十八話 逃れられない苦しみその二
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第二十八話 逃れられない苦しみその二
顔を曇らせてだ。世俗の革命については否定するのだった。
「自由と平等、博愛の名の下において殺されていくのです」
「それが行われるのが世俗の革命」
「そうなのですね」
「つまりは」
「そうです。だからこそ私は世俗の革命は」
既にだ。出る言葉は決まっていた。
「否定するのです」
「しかし芸術における革命はですか」
「それはよいのですね」
「ワーグナー氏の革命は」
「ドイツ芸術は長い間フランス等の後塵をはいしてきました」
王はフランスを敬愛している。しかしだ。
ドイツの芸術の発展と成熟は願っていた。だからこその言葉だった。
「しかしそれがです」
「ワーグナー氏によって変わる」
「そうなりますか」
「これからは」
「そうです。それは既にワーグナーの誕生からはじまっていましたが」
それでもだというのだ。マイスタージンガーを観ながら。
「ですがこの作品においてそれがです」
「前面に出て主張されている」
「そういうことですか」
「そうです。そうなっているのです」
まさにだ。そうだというのだ。
「ドイツ芸術の隆盛が今高らかに主張されるのです」
「それが革命ですか」
「ワーグナー氏の起こす革命」
「それですね」
「そうです。では聴きましょう」
舞台を観ながら。王は周りに話す。
「そうしようか」
「はい、それでは」
「共に観させてもらいます」
「ワーグナー氏のこの作品を」
「そう。ワーグナーの音楽は素晴らしい」
それはいいというのだ。しかしだった。
それでもだ。彼はこう言うのだった。
「ですが」
「ですが?」
「ですがとは」
「心はどうなのか」
ワーグナーの人間性。それの問題だった。
「それが問題ですが」
「心がですか」
「ワーグナー氏の」
「芸術はあくまで高潔です」
彼のそれについてはだ。王は何の不安も持っていなかった。
しかしだ。それ以外のこと、その心はというと。
こうだ。苦い顔で呟くのだった。
「人は誰もがそうなのでしょうか」
「あの。陛下」
「ワーグナー氏のことは」
「あのことは」
「いえ、どうも」
言葉をだ。途中で遮ったのだった。
そしてだ。王はこんなことも言った。
「何でもありません」
「左様ですか」
「ではこのままですね」
「歌劇を御覧になられますか」
「そうされますか」
「最後までそうします」
その考えも伝えたのだった。
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