アインクラッド 後編
――だから、今は。今だけは。
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さを罵った。一体何故自分はこんな敵陣のど真ん中で、こんなにも悠長に昔話などしていたのか。しかしいつの時代にも、先に立つ後悔なんてものはなく。直後、パチ、パチ、と拍手の音が通路に何度か反響しながら聞こえてきた。
「いやぁ……感動したぜ。中々良いラブロマンスだった」
大げさに抑揚を付けた声。そしてどこか異質なイントネーションは、記憶を探るまでも無く誰のものか明らかだった。
「Poh……!」
「ハハ。そう邪険にすんなよ、《穹色》。確かに水を差しちまったのは認めるが――」
おどけた声を響かせながら、Pohは初めて見たときから変わらぬ黒ポンチョ姿でマサキの視界に入ると、その上に重なって倒れているエミを足でひっくり返し、右手を振り上げた。そこには彼の得物である魔剣《友斬包丁》が握られていて、鮮血色のライトエフェクトを纏っている。
「やめろ――!!」
「すぐにあの世でイチャつかせてやるからよ!」
Pohはそのまま、一切の躊躇すら見せずエミの無防備な首筋に向かって振り下ろし。
「……なんてな」
友斬包丁は、エミの首筋からほんの僅か離れたところで、ライトエフェクトを維持したまま停止した。
「《大道芸》スキルってんだ。中々面白いだろ? ……ま、ジュンの野郎は上手く使いこなせなかったみてェだが」
Pohの口ぶりからするに、その《大道芸》スキルとやらが先ほどの戦闘でジュンが見せた「硬直のないソードスキル」のタネだったらしい。マサキはまだエミの首が繋がっていることに安堵したが、それを嘲笑うようにPohは四肢から力の抜けた彼女の襟を掴むと、そのまま持ち上げて友斬包丁の背で顎を持ち上げた。
「さて、どうやって遊んだもんかね」
上手く動かせないだろう表情筋でPohを睨みつけ、最大限に抵抗の意を示しているエミの顔を、Pohが面白そうに覗き込む。
その間も、マサキの脳はこの窮地を脱するための方策を生み出すべく、必死に回転を続けていた。マサキとエミの耐性を容易く貫通して麻痺状態に陥れたということは、相当な高ランク毒のはずだ。推測ではあるが、毒が効果を失うまで少なく見積もっても九百秒はあるだろう。逆に言えば、このままでは九百秒以内にエミは死ぬ。
しかし余命の推測はできても、この状況を逆転させられる起死回生の一手は一向に思い浮かばない。
マサキの中で焦りが増大し、集中の阻害をもたらすと同時にマサキが必死に目を逸らし続けていた「不可能」という単語を直視させた。
――やはり、こうなるのか。
マサキの脳裏に、かつての親友が死んだ時の映像がリフレインした。それも何度も。その連続再生がようやく終わったと思ったら、今度は別人の死亡シーンが流れてくる。マサキが怒りのままに手に掛けたオレ
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