アインクラッド 後編
――だから、今は。今だけは。
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明るく輝くのに似ていた。
「穹色の、風……」
最後の男が消える間際、そんな風に形容した。
「穹色の風、か。中々ネーミングセンスのある奴だったな」
感心したように言ったのは、あの黒ポンチョだった。面白そうに手を叩く彼の横には、側近らしき二人も控えていた。
「折角だし、今ここでテメェも殺っちまうつもりだったんだが……気が変わった。お前はもっと『寝かせた』方が美味そうだ。精々死なずに頑張れよ、《穹色の風》」
最後にニヤリと見せ付けるように笑った黒ポンチョは、側近と共に結晶を掲げ転移した。マサキは三人に飛び掛って斬りつけたが、蒼風の刃が切り裂いたのは三人が消えた後の残光だけだった。
腕がだらりと下がり、雨音が一段と強くなった。そんな中を、どれくらい佇んだだろう。数十年が過ぎ去り、この浮遊城から一人残らず消え去っているのではとさえ考えた。それでもいいとも思った。
視界の端に、自分以外の唯一の不自然な物体を見つけた。トウマが死んだ場所に落ちていた箱だ。拾いに行こうとしたが、両脚がろくすっぽ動きやしない。この長い時間を過ごすうちに、地面に根を張ってしまったようだった。それを力ずくで引き千切るように片足ずつ踏み出して箱まで行き、我が子への愛情と親の仇への憎しみが入り混じったような複雑な感情と一緒にそれを持ち上げてラッピングを解いた。
中に入っていたのは黒のスラックスと、薄い青色の長袖ワイシャツ。ハーフフレームの眼鏡もあった。そういえば、彼が以前、こんな服装が似合いそうだと言っていたか。
ワイシャツの上に眼鏡を重石にして一枚の紙があった。引き抜き見てみると、小学生がクレヨンで書いたような安っぽい字体で「HAPPY BIRTHDAY」とだけ書かれていた。
「ふざけるなっ」
マサキはそれを片手で握りつぶし、投げ捨てた。そのメッセージカードは水の浮いた地面に落ち、弾みもせずに動かなくなった。蹴飛ばして、踏みつけてやろうとも思ったが、結局何もしなかった。
そのうちに紙の耐久値が切れて、青白のポリゴンになって砕けた。書かれていた字体と同じ、安っぽい色だった。
その約九ヵ月後、二〇二四年の元旦に行われたギルド《ラフィンコフィン》結成宣言で、マサキは黒ポンチョのプレイヤーネームが《Poh》であることを知った。
マサキが全てを話し終えるまでの間、エミは一度も口を開くことはなかった。ただ、胸の前で重ねられた白い両手が開いたり、閉じたり、彷徨ったりした。
「今でも鮮明に覚えてる。あいつが死ぬ時の、最期の顔。口の動き。何人に囲まれて、体の何処に、どんな武器が、どんな角度で突き刺さったか。オレンジたちの顔から、森中に響いてた雨の音の大きさまで、全部な」
マサキは死体のように項垂れた。この後エ
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