アインクラッド 後編
――だから、今は。今だけは。
[4/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
となりソードスキルが使えなくなるからだ。戦闘を目的とせず、ただ持ち歩く時ならばそれでも構わないだろうし、あくまでソードスキルが使えなくなるだけだから、片手で力任せに振り回すこともできる。しかし、この世界でソードスキルを使えないまま戦うというのは、例えるならレーシングカーに自転車で勝負を挑むようなものだ。ペダルを踏む足の筋力で勝っていたとしても、エンジンが生み出す馬力には勝てない。
ではどうすればいい? マサキはそれのみに集中する。最早戦闘続行は不可能。だがマサキが今から救援に向かったとして確率は五分だ。ポンチョとトウマを引き離すことを優先しすぎた弊害で、マサキとトウマまで分断されてる。その上、マサキは今技後硬直の真っ只中だ。トウマが落とした転移結晶を拾い直して再び転移するよりも、男たちの刃が彼を貫くほうが早いだろう。
そうしている間にマサキの硬直が解ける。マサキは一目散に駆けた。
「止めろォッ!」
マサキが叫んだと同時、トウマは右手に握っていた大剣を放り投げ、人差し指と中指を揃えて振った。ウィンドウを呼び出す動作だ。
何を、と問いかける暇もなく、四方八方から刃が迫る。濡れた鈍色の刃の隙間から垣間見えたトウマの唇が、最後に「わり」と軽々しく動き、止まった。
肌が水色に光り始める。
マサキはHPバーを見た。既にトウマのHPは尽きていた。
両脚が走ることを放棄し、平坦な地面に躓いた勢いそのままに倒れこむ。腐葉土のジュースに顔面を擦りつけながら滑り、転がって、トウマを刺し殺した男たちの目前で停止した。
地面から何本も足が生えていて、その向こうに青い紙で包装された二十センチ四方くらいの箱が落ちていた。
手を伸ばしかけた時、地面から生えた足が動いたためその頂上を見上げると、男たちの目と口が全て、不気味な三日月型に歪んでいた。
それを見た途端、マサキの四肢に力が流れ込む。理屈ではなく、子供が人形の関節を無理矢理捻って動かすような、暴力的なエネルギー。
「……お前か」
無数の三日月のうちから三つを選別して睨んだ。それは、最後にトウマを刺した男のものだった。
「お前があぁぁぁぁッ!!」
マサキはその顔の中心を蒼風の切っ先で殴りつけた。その次は、そいつから一番近くにいた奴を刹那のうちに切り刻んだ。そうすると、今まで恍惚としてさえいた男たちから血の気が引いて、震え上がって逃げ出した。しかし、男たちの中にマサキより速く走る者はいなかった。マサキは一人、また一人の背中に追いついては蒼風を突き立てた。いつしかマサキが走った跡には、マサキに殺されたプレイヤーの青白い破片がキラキラと浮遊するようになった。それは吸い寄せられるようにマサキの背後を追走し、やがて溶ける。ブラックホールが星を飲み込む際に太陽よりもずっと
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ