アインクラッド 後編
――だから、今は。今だけは。
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男がおあつらえ向きに大きく後ろへ跳んだ。
今しかない。マサキはそう決断すると、振り上げた勢いのままトウマの右後ろに着弾した大剣の刃の上を駆け上がり跳躍、空中で前方に一回転しつつ伸ばした右足をかかとから振り下ろす。空中でのみ使用可能な《体術》スキル単発技《逆月》。マサキの踵は男の鼻先を掠めて地を叩くが、マサキはそのまま前方へ倒れこむように一歩進み。続いて大きく踏み出した二歩目と同時に後方へ振りかぶった蒼風を走らせた。風刀スキル重単発技《春嵐》。まだスキル熟練度が低い風刀スキルの中で、現段階で最も威力が高い大技であり、攻撃しながら刀身の長さを変化させられるという特徴を持つ。辺りの空気を根こそぎ引き千切る暴風のような音を発しながら文字通り相手の体に向かって伸びる刃が、遂に男の体を捕らえた。
「……Wow」
驚いた風な声を漏らした黒ポンチョだったが、やはり技量はそこいらのプレイヤーとは一線を画すものを持っているようで、想定外のはずの一撃に対してもリーチの短いダガーできっちりと受け止めて見せた。しかし衝突のエネルギーまでは如何ともし難く、両の踵を浮かせて滑るように後退していく。
「トウマ、転移だ!」
「っ……分かった!」
返答までに一瞬の間が存在したが、マサキの思考を正しく理解してくれたのだろう、トウマの答えは肯定だった。
これでいい、とマサキは安堵した。これでトウマは無事に安全圏へ脱出し、後は足の速い自分が適当にこいつらを撒けば全てが終わると。
フードがはためき、獰猛に歪められた口元が仄かに照らされるまでは。
「え……?」
カーペットの上にスプーンを落としたようなのっぺりとした声が、滝のような雨音の中でいやにはっきりと耳に届いた。振り返ると、トウマの左肘から先が消え、掴んでいた転移結晶諸共地面に落下していた。
「な……っ!?」
馬鹿な! とマサキの全脳細胞が理解を拒んだ。黒ポンチョの男は攻撃を仕掛けられる状況にない。しかし他にトウマへ攻撃できるような存在もない。トラップか? しかし、トウマは奴等と戦いながらこの場所へ逃げてきた。いわばこの場所は中立地であり、向こうのホームグラウンドではない。事前にトラップを張った場所に誘導されたということもないだろう。そのつもりならもっと早くに罠にかけていたはずだ。
ならば何故、と再び最初の疑問に戻ろうとしたマサキの思考回路をハンマーで殴るように、今まで遠巻きに見守っていたオレンジたちがトウマへ殺到した。
彼が万全の状態だったならば、これしきの襲撃は撃退してみせただろう。しかし、今は片腕を失っている。これは彼のような両手武器を専門とするプレイヤーにとっては特に大きな問題だった。何故なら両手に装備する武器を片手で持った場合、イレギュラー装備状態
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