45部分:第三話 甘美な奇蹟その十
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第三話 甘美な奇蹟その十
その動きを見てだ。周りの者は言うのだった。
「素晴しいな」
「ああ、細かいところまで覚えておられる」
「見事な方だ」
「愚かな方ではない」
それがわかるのだった。王は間違いなく聡明である、その立ち居振る舞いからもわかるのだった。
その王を見てだ。他の国の大使達も見抜くのだった。
「外見だけではなくな」
「かなり聡明な方だ」
「欧州のこともバイエルンのこともわかっておられる」
「そしてどうされるべきかも」
「全てわかっておられる」
そのことをだ。王のこれまでの言葉や動きからもわかったのだ。
そしてそのうえでだ。彼等はまた話すのだった。
「あれだけの方ならばな」
「バイエルンは憂いを抱かずに済む」
「この国は素晴しい王を手に入れたな」
「これはバイエルンにとって僥倖だな」
「そうだな」
こう話していく。とかく見事な王であることがわかったのだ。
その王が即位してだ。皆その最初の命を待っていた。何を言うかだ。
即位の儀式の後で玉座に座る。その姿も絵になっている。
バイエルンの青の上着に白いズボンとマントにブーツ、その姿で玉座に座ってだ。彼は周りの者達を前にして言うのであった。
「では王よ」
「それではですね」
「これからどうされるか」
「何を言われますか」
「既に決めている」
玉座に座ってもその目は変わらない。遠くを見る目だ。
その目でだ。彼は言った。
「ワーグナーだ」
「ワーグナー?」
「ワーグナーといいますと?」
「あの音楽家ですか」
「陛下がお好きな」
「そうだ、そのワーグナーだ」
こう言うのだった。
「ワーグナーを呼びたいのだが」
「まさかこの国にですか」
「バイエルンにですか」
「呼ばれると」
「そうだ、ワーグナーを呼ぶのだ」
これが王の最初の命だった。
「よいな」
「あの、ワーグナーはです」
「今は何処にいるかわかりません」
「ドレスデンでの革命でのことで今もです」
「ドイツ中を転々としています」
「いえ、若しかすると」
どうかというのだった。そのワーグナーは。
「この国にいないかも知れません」
「ドイツにいるかどうかもです」
「わからないのですが」
「革命はもう過去のことだ」
王はそれにこだわらないのだった。
「最早だ。過去だ」
「過去ですか」
「そうだというのですか」
「そうだ、些細なことだ」
また言う王だった。
「そんなことはな」
「そんなことですか」
「あの革命もまた」
「そう仰るのですか」
ドイツはおろか欧州中を騒然とさせた革命であった。一八四八年のその革命によってだ。多くの国の政権が変わったのである。
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