434部分:第二十七話 愛を呪うその四
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第二十七話 愛を呪うその四
「あの方にとって。一つの問題の終わりでもあり」
「それでもありですか」
「さらに」
「はじまりでもある」
何かが終わってそれで完結ではなくだ。
そこからさらにだ。はじまるものがあるというのだ。
そしてそれが何かもだ。ビスマルクはわかっていた。
「夜だ」
「夜?」
「夜ですか」
「あの方は夜の世界に入られる」
そうなるというのだ。夜の世界にだ。
そしてだった。その夜の世界についても言及する。
「ワーグナー氏の作品、ウェーバーもだが」
「あの方はウェーバーもお好きだとか」
「そうでしたね」
「ワーグナー氏はウェーバーの影響を受けている」
ドイツ歌劇の開祖と言ってもいい。モーツァルトもドイツ語の歌劇を作っているがそれを確かにしたのがそのウェーバーなのである。
彼はどうかというとだった。
「魔弾の射手では夜に狼谷に行っているな」
「あの魔物がいる谷」
「あの谷ですね」
「そうだ。あの谷に夜に行く」
そうして魔弾を造るのだ。魔弾の射手第二幕の場面だ。
その夜だった。ウェーバーも。
「夜なのだ。ワーグナー氏然り」
「そういえばそうですね」
「ワーグナー氏の作品で事件が起こるのは常に夜です」
「夜に全てが起こります」
それが大きな特徴なのだ。ワーグナーの世界においては夜が非常に大きいのだ。
その夜だった。王が入るという世界は。
「夜、全ては夜」
「そうなのですか」
「あの世界に入られる」
「そうなりますか」
「その通りだ。あの方はワーグナー氏の夜に入られるのだ」
そしてなのだった。さらに。
「そして夜の中にある」
「夜の」
「その中のですか」
「森、そして城だ」
この二つもだった。ワーグナーの作品に常にと言っていいまでにあるものだった。
ワーグナーの作品はそうしたものが無意識の中にまであるのだ。ビスマルクもそのことがわかってだ。そのうえで話していくのである。
「あの方々はあの中に入られて」
「そうしてですか」
「その中で生きられるのですか」
「そうなってしまわれますか」
「それも運命なのか」
ビスマルクはここでまた遠くを見た。
「あの方にとって」
「しかし。王は昼の世界にいなければならないのでは?」
「人は昼に生きるものです」
「夜には休むもの」
「ですから」
「その人がいるからだ」
それでだと言うのだった。ビスマルクは今度は。
「あの方は人を避けられるようになる」
「はい、そうですね」
「首相は先程からそう仰っていますが」
「だから夜の中に入られ」
「昼に休まれるようになられると」
「昼。企み深い昼」
ビスマルクは自然にトリスタンとイゾルデのこの一節を口にした。
「あの方の耳
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