430部分:第二十六話 このうえもない信頼その二十三
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第二十六話 このうえもない信頼その二十三
「流血を好みはしない」
「そうですね。陛下はそうした方ではありません」
「それは確かです」
彼等もわかっていた。ナポレオン三世は確かに策略を好むがだ。それでも決して残暴な人間ではない。だからなのである。
そうしただ。無闇な流血はというのだ。
「朕はそうする。だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「朕が戦いを止めさせてもだ」
それでもだというのだ。ここで。
「それを聞かぬ民がいればだ」
「その場合はですか」
「わからないと」
「そうだというのですね」
「そうだ。朕が降伏すればとりあえずの戦争は終わる」
フランスとプロイセンの国家同士の戦争はというのだ。
「しかしそれを受け入れない民がいれば」
「彼等は戦い続けますか」
「プロイセンに対して」
「そうしますか」
「そこまで我が国の臣民のプロイセンへの反感は強い」
まずはこれがあった。まさにそれが為に今戦争に向かっている。
ここからだ。彼は言えた。
「それが戦いで消えなければ。むしろ」
「むしろですね」
「ここで」
「そうだ、敗戦でそれが増せば」
どうなるかというのだ。それによって。
「彼等は戦争をだ。さらに望む」
「しかし正統な政府が陛下の停戦を継承されれば」
「それではです」
「何も問題はないのでは」
「そう思いますが」
「正統か」
この言葉にはだった。
ナポレオン三世は笑わなかったがシニカルな響きを込めてだ。そうしてだ。
こうだ。苦々しげに言ったのだった。
「正統という言葉はこの世で最も曖昧な言葉の一つだ」
「では」
「まさか」
「正統なぞ言えばそれだけでなれる」
そうしたものに過ぎないというのだ。
「だからだ。幾ら普通の政府が言ってもだ」
「そうした者達が出ればですか」
「血が流れ続ける」
「そうなりますか」
「戦争での。軍同士での流血は限られている」
そうだというのだ。その場合の流血はだ。
しかしどういった流血ならばだ。問題かというと。
「市民ということになるか」
「そうした者達が騒げばですか」
「より多くの血が流れる」
「そうなるというのですね」
「そうだ。革命がそうだ」
革命のことはフランスにいれば誰もが知っていることだった。
この国は多くの革命を経てきた。その都度だ。
多くの血が流れてきた。だからなのだ。
ナポレオン三世もだ。今言う。
「そうしたプロイセンに反発して革命的なことが起こればだ」
「その場合はですか」
「最悪の事態になりますか」
「少なくとも朕は流血を抑える」
それは絶対だった。彼にとっては。
しかしその後のことは彼でも保障できなかった。時代は血も欲していた。美だけがあ
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