第五章
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「今年最下位になったら三年連続だぞ」
「それでそう言います?」
「そうだよ、駄目虎だろ」
「いやいや大野士長違いますよ」
ここでふと通りがかった中西の同期の曹候補学生である小河幾太が言ってきた。背は中西と同じ位で丸坊主に眼鏡が目立つ外見である。
その小河がだ、大野に笑って言ったのだ。
「猫ですよ」
「ああ、猫か」
「あんな弱い虎いないじゃないですか」
こう言うのだった。
「だから虎って言ったら駄目ですよ」
「じゃあ猫って呼ぶべきか」
「はい、駄目猫ですよ」
「そうだな、じゃあな駄目猫」
大野は中西の左肩を自分の右手でぽんぽんと叩いて言った。
「今年も最下位だからな」
「じゃあな駄目猫」
小河も続いた、この時は流石の中西も沈黙したが。
この年から三年後中西は江田島の方にいたがそこから大野に携帯で電話をかけてそのうえで彼に尋ねた。
「もう猫じゃないですよね」
「ああ、虎になったな」
「じゃあシリーズ楽しみにして下さい」
「負けるだろ」
「負けませんよ」
「勝ったらどうしますか?」
「横須賀に来たら好きなもの食わせてやるよ」
大野は電話の向こうの中西に笑って話した。
「居酒屋でな」
「じゃあダイエーが勝ったら私がですね」
「別にいいからな」
「えっ、何でですか?」
「勝てる筈ないだろ、ダイエー強いぞ」
「勝ちますよ、絶対」
中西は優勝した喜びから答えた。
「安心して下さい」
「どうだろうな、まあ御前は今江田島で勉強中だろ」
「はい、たいへんです」
「そっちも頑張れよ」
「わかりました、じゃあまた会ったら」
「宜しくな」
大野は携帯の向こうの中西に笑って応えた、流石にいい夢見ろよとは言わなかった。優勝したチームに対してそれはないと思ってだ。
そして今も大野は中西に好きなものを食わせてはいない、横須賀に戻ってきた彼と再会したが。それは阪神がまだ日本一になっていないからだ。中西が言うこととは違い。
駄目猫 完
2018・11・22
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