アインクラッド編
19.リヒティ
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ル《弦月》を発動させ、男を蹴り倒した。
リーダーらしく、すぐに起き上がろうとした男の首筋に剣を突きつける。
「今日盗った物を返せ」
「な、んだと?」
「メイスがあったはずだ。3秒以内に出せ。出さなかったら殺す」
「わ分かった!分かったから殺さないでくれ!」
男はすぐにメイスを取り出し、俺に差し出した。それは確かに、リヒティが使っていたものだった。わずかに俺は嘆息すると、ちらりと外を見た。紅白に染められた、騎士服が見えた。
「後は私たちがやります・・・アルト君」
アスナはさらに何かを言おうとしたが、結局言葉は出てこなかった。代わりに一度礼をすると、小屋の中に倒れるオレンジプレイヤーをほかの血盟騎士団の団員とともに引き立てていった。
俺が小屋を出ると、《鼠》のアルゴが腕組みをし、木にもたれかかっていた。
「俺ッチをメッセンジャーにするとは、いい度胸だな。アル君ヨ」
「すまない。ここの座標を割り出してくれて、なおかつこの夜中に連絡のつきそうなプレイヤーは、あんたしか思い浮かばなかった」
俺はミーシャたちと離れた後、アルゴに連絡を取ってオレンジプレイヤーたちの割り出しと居場所特定を依頼した。さらに夜中の襲撃計画を伝え、あとで黒鉄宮に犯罪者プレイヤーを連れていく人材を連れてきてもらえるように頼んだのだった。
「いくらだ?」
「高いゾ、と言いたいところだけどナ・・・今日のところハ、おまけしといてヤル」
「・・・?」
俺がわずかに首を傾げると、アルゴは少しだけ、沈痛な面持ちで行った。
「弔い合戦だったんだロウ。俺ッチは、そのための情報でぼったくるつもりはナイヨ」
***
ギルドホームに帰ってきたのは、日が昇る直前だった。
玄関を開けて居間に入り、俺は一瞬びくりと肩を震わせた。
椅子の上で、クリスティナが膝を抱えて丸まっていたからだ。
「・・・あ、おかえり。アルト」
「・・・ただいま」
本当はすぐに渡すつもりはなかったのだが、俺は予定を変更した。放っておくと圏外に出ていきそうな気がしたからだ。ウインドゥを操作してメイスを取り出し、彼女の前に置く。
「これ・・・もしかして」
「あぁ。取り返してきた」
クリスティナはおそるおそる手を伸ばし、メイスをそっと撫でた。やがて、彼女の眼から涙がすっと零れた。
「彼ね、最後に愛してるって言ったのよ。怖かったはずなのに、死にたくなんでなかったはずなのに・・・。とってもかっこいい笑顔で言ったの。いっつも照れて言ってくれないのに」
涙に濡れた瞳を上げて、彼女は小さく微笑んだ。
「ありがとう、アルト」
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