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レーヴァティン
第八十話 繁栄の中でその三

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「何でも多少は噛んでだ」
「そのうえで、でありますか」
「飲み込む様にしている」
「だからでありますか」
「麺、蕎麦もだ」
「噛んで、でありますか」
「食っていた」
 そうしていたというのだ。
「これまではな」
「そうでありましたか」
「そうだったが」
 それがというのだ。
「どうもここでは違う様だな」
「このつゆでは」
「そうして食った方がいいか」
「多めにつけて噛むより」
 そうして食べるよりはというのだ。
「それよりも」
「飲み込むか」
「そうするべきであるかと」
「噛まずに食うとな」
 どうかとだ、英雄は自分の彼が思うに関西文化圏の常識から話した。
「身体に悪い」
「消化に悪いでありますな」
「そうだ」
 その通りだというのだ。
「そう思うがな」
「しかしであります」
「ここではそうして食うな」
「蕎麦は」
 見ればざるやせいろは全てそうして食べている、汁そばもあるがそちらは威勢よく一気にすすってみせている。
「それではであります」
「郷に入れば郷に従え」
「そうも言うでありますし」
 この言葉もあるし、というのだ。
「ですから」
「俺達もだな」
「そうすべきかと」
「ではだ」 
 ここまで話してだった、英雄はようやく自分自身を納得させることが出来た。このことは峰夫も同じだった。
 それで二人共蕎麦をつゆに少し漬けてそのうえで噛まずに飲み込んだ、そうして喉ごしを味わったが。
 英雄はそうしてからだ、峰夫に言った。
「確かに美味いな」
「そうでありますな」
「このつゆ、そして蕎麦には」
 噛まずに飲み込むことがというのだ。
「つゆを少し漬けて」
「多めに漬けて噛んで食べるよりも」
「この方が美味い」
「全くであります」
「ではこれからはな」
「今の様にでありますな」
「この店の蕎麦を食っていこう」
 こう言ってだ、英雄と峰夫はその蕎麦を食ってお代わりをした。二人共おかわりは六回してだった。
 満腹したがここでだった。
 峰夫は茶を頼もうとした、しかし。
 傍の席の客がそば湯と言ったのを見てすぐに気付いた。
「このお店では」
「茶は飲まないな」
「そうでありますな」
「そういえばだ」
 ここで英雄も気付いて言った。
「東京、江戸の蕎麦屋では茶は飲まない」
「そうでありますか」
「お茶はあがりと言うな」
「あがり、終わりなので」
「言葉としてよくないからだ」
 それでなのだ。
「茶を飲まずにな」
「そば湯をでありますか」
「飲む」
 蕎麦を茹でた後のその湯をだ。
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