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懐かしい秋の時
第三章

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「初優勝までね、けれどね」
「初優勝じゃないからよね」
「四半世紀以上空いてたけれど」
 二十世紀最後の優勝である一九九一年からだ。
「それでもね」
「初優勝じゃないからっていうのよね」
「そうした実感ないわ、生まれてはじめて優勝観たけれど」
 二〇一六年のことである。
「それでもね」
「初優勝じゃなくてね」
「だからね、それにここで胴上げしていないし」
 広島市民球場、そこでだ。
「それでマツダスタジアムでもなかったし」
「あそこでもなかったわね」
「だからね」
 それでというのだ。
「ここを見てもね」
「あまり思わないのね」
「私はね、ここの球場の思い出は」
「あまりないわね」
「子供の頃お父さんとお母さんに連れて来られて」
 加奈の両親も広島市に住んでいる。
「何度か来たけれど」
「お祖父ちゃんも連れて来てくれたでしょ」
「お祖母ちゃんもね、けれど子供の頃だから」
 まだほんのだ、小学生の頃の。
「だからね」
「あまり覚えていないわね」
「物凄く古い球場って覚えてるけれど」
 それでもというのだ。
「これといって思いでないわ」
「そうよね、やっぱり」
「けれどお祖母ちゃんにとっては」
「ずっとこの球場でカープの試合観てね」
「初優勝も観た」
「思い出の場所よ。優勝した年の秋なんか」
 それこそというのだ。
「凄く賑やかだったのよ」
「優勝しようっていうとね」
「今のマツダスタジアムみたいにね」
「そういうとわかるわ」
 加奈にしてもだった。
「そのことは」
「そうでしょ、もうここで野球はしないけれど」
 その場所はマツダスタジアムとなっている。
「今も覚えてるわ」
「懐かしい思い出ね」
「そうよ、じゃあ今からね」
 祖母は孫にその時の光景を観ながら話した。
「お好み焼き食べに行きましょう」
「ええ、じゃあね」
「食欲の秋だから」
 野球、スポーツの秋の次はそちらだった。
「それじゃあね」
「次はよね」
「そう、お好み焼きよ」
「やっぱりお好み焼きは広島よ」
 加奈は静に強い声で話した。
「福岡にもお店あるけれど」
「やっぱり違うのね」
「大阪の方があったり」 
 こちらでは大阪焼きと呼ぶ、大阪と広島のお好み焼きを巡っての争いは複雑でかつ熱いものがあるのだ。
「それで味もね」
「広島とは違っていて」
「美味しくても」
 それでもというのだ。
「何かが違うのよ」
「だからなのね」
「広島に帰ったらね」
「加奈ちゃんはお好み焼き食べるのね」
「絶対にね。お祖母ちゃんのお家にも行って」
 そしてというのだ。
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