409部分:第二十六話 このうえもない信頼その二
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第二十六話 このうえもない信頼その二
「あの方は師匠に妻を奪われました」
「このことは紛れもない事実」
「それをしたワーグナー氏の名声も誰も信じませんが」
「あの方も名誉も同じ」
「何も違いはありません」
信用されないということにおいてだ。同じだというのだ。
「そして最後にですね」
「ビューロー夫人ですね」
「あのリスト氏のご令嬢でもありますが」
「あの方もです」
その父によく似た高い鼻を持つコジマのことも話された。
「夫を捨ててその師に走った女です」
「既にワーグナー氏の娘を二人産んでいます」
「公にはビューロー氏の娘になっていても」
このこともだった。誰も信じてはいなかった。
「誰もが知っていることです」
「既に不義の子を二人も産んでいる」
「そしてまた一人です」
「妊娠しています」
「その父親もまたです」
「ワーグナー氏です」
「それはもうわかっています」
既にだ。バイエルンの誰もがわかっていることだった。
そのことをだ。彼等はさらに話していく。
「御存知ないのは陛下だけでしょう」
「いえ、陛下も実は御存知なのでは?」
ここでこんな意見が出た。
「若しかして」
「陛下も御存知でしょうか。あのことは」
「まさかと思いますが」
「ビューロー夫人のお腹の子の父親は誰なのか」
「そのことを」
「御存知でない筈はないでしょう」
こうまで言われるのだった。このことについて。
「何しろバイエルンの誰もが噂していますし」
「これで三度目です」
「三人も子を孕めばです」
「知らない方がおかしいです」
こう話されるのだった。
「ましてあの方はかなり鋭い方です」
「そうですね。あの方はあれで感性がはっきりしていますし」
「それを考えるとですね」
「あの方も本当は御存知でしょう」
「左様ですか」
こうだ。王はワーグナーとコジマのことを知っているのではと考えられるのだった。
「しかしあえて御存知ないふりをする」
「あえて謀れる」
「彼等が嘘を吐いていると知っていて真実と言う」
「それは何故でしょうか」
「おかしな話ですな」
「全くです」
王のその行動は誰もが首を捻るのだった。そしてこの話は。
ベルリンにまで届いていた。ビスマルクは食事中にこの話を聞いてだ。好物のハンバーグ、その上に目玉焼きを乗せたものを食べながらだ。
その中でだ。彼は言うのだった。
「誰もわかっていない」
「わかっておられないとは」
「どういうことでしょうか」
「バイエルンの誰もわかっていないのだ」
こう言うのである。傍に控えている者達に対して。
「あの方のことがだ」
「バイエルン王のことが」
「あの方のことがですか」
「そうだ。あの方はわかっておられる
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