405部分:第二十五話 花咲く命その二十一
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第二十五話 花咲く命その二十一
「ですが今は」
「そうではなくですか」
「違うというのですか」
「はい、違います」
エルザと呼ばれている。そのことだった。
「そのことに何故か悲しいです」
「あの美貌の姫に例えられることがですか」
「そのことが」
「あの方はまさか」
王はだ。どうかというとだった。
「私を見ているのではなく」
「それは違い」
「他の方を」
「あの方はあの騎士を御覧になられているのでしょうか」
エルザではなかった。騎士だというのだ。
「彼を」
「彼!?」
「彼ですか」
「彼女ではなく」
周りはこの単語の違いに思わず問い返した。ゾフィーは今彼と言ったのだ。その言葉を聞き漏らすことは今は決してできなかった。
それでだ。問い返すとだった。ゾフィーも話す。
「あの方は。ただひたすら見ておられるのです」
「一体どなたをでしょうか」
「彼と仰いましたが」
「それに先程騎士と仰いましたが」
「では一体」
「どなたでしょうか」
「ローエングリンです」
彼だと。ゾフィーは話す。
「あの方はひたすらあの騎士を見ておられるのです」
「御自身を投影されているのではないのですか?」
「だからあの歌劇を愛されているのではないのですか?」
「そうではないと」
「確かに。あの方はあの歌劇を愛されています」
それは確かだ。しかしだというのである。
「ですがその愛し方は」
「それはですか」
「違うというのですか」
「女性。女性の愛し方です」
それだというのだ。
「そうなのですから」
「女性?ではあの方がエルザ姫だと」
「そう言われるのでしょうか」
「近頃」
こう前置きしてだ。ゾフィーは話した。
「そんな気がします」
「ううむ、それはどうでしょうか」
「違うのではないでしょうか」
「そう思いますが」
誰もがだ。それはどうかというのだった。
「あの方を見ていますと」
「そうですね」
「あの方はあくまで男性です」
「女性ではありません」
こう言うのだった。王の外見を見て思い出してだ。
「背は高くすらりとしておられます」
「しかも流麗なお姿で」
「軍服もフロックコートも似合いますし」
「王のマントを羽織られればそれこそ」
これ程見事な男性的な姿はない。これが彼等の意見だった。
これは外見だけを見ての言葉だった。しかしであった。
ゾフィーはだ。まだこう言うのであった。
「しかし」
「しかしですか」
「違うと仰いますか」
「はい、そう思います」
こうだ。己の察しているところを述べるのである。
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